「3歳児神話」の刷りこみ

ミガン うちの夫は、できたら専業主夫になりたい、って言うよ。

未映子 いや、でもそれは難しくない? 子どもがいる家庭において男性の専業主夫っていう選択は、わたしの考えでは基本的にないと思うなあ。病気とか働けない事情がある場合はもちろん別だけど、一般的に健康な男性が、子どもが大きくなるまで働きつづけるのは、命がけの出産に対する対価、ぐらいに思ってるところがちょっとあったりして(笑)。あれ……、あんまりピンとこない?

ミガン いや、わかるけど、わたしの収入が安定するなら、夫が専業主夫でもいいけどなあ。

未映子 もちろん今の就労システムって、ほんとに男性にとっても気の毒だと思う。男性が働きながら本格的に子育てしようと思っても社会がそれを許してくれない場合が多いし。でも、就労形態を見直すことはよくても、専業になるのは男女ともけっこうしんどいと思うなあ。万が一、そのあと離婚することにでもなったら彼が自分で生きて行けないようになってしまうでしょ?

ミガン 本人がそうしたいと言っても?

未映子 うん。女性でも男性でも、それはリスクだと思う。だけど、それを必要としてしまう、日本の就労システムにやっぱ本質的な問題があるよね。男性でも女性でも、子どもがいる状態で思いっきり仕事をしようと思ったら、祖母でも祖父でも家族でも、「専業主婦的貢献」をしてくれる存在が不可欠。病児保育や保育園だけでは、独身のときとおなじように仕事しようとしてもやっぱり無理。だから、子どもを持ったら、仕事のやりかた、仕事への考えかたを変えるしかないのかも。

ミガン それにしても、専業主婦になりたい女の人、最近増えてるという話だけれど。

未映子 だって、仕事も育児も家事もすべてやるのは、ちょっと想像を絶するくらいしんどいもん。気合とかでどうにかなるものでもないくらい、しんどい。そもそも妊娠・出産がしんどいよ。

ミガン とくに未映子は、最後帝王切開になったから。

未映子 人によるみたいやけど、わたしは傷跡が痛くて痛くて。そのこともあって、2人めは、もうないと思います。

ミガン 子どもは2人以上おったほうが、あとで楽になるよ……。小学校に入って、子ども同士で遊びだすようになるまでの辛抱。

未映子 それはわかるけど、わたしに限っていえば、もう出産がしんどいもの。お腹を切るのが本当に痛かった。今後べつの病気に罹ったりして、体のどこかを切りますってなっても、それもたぶん無理……。子どもを持つことは信じられないくらい素晴らしいことやけど、でもあのしんどさをなかったことにはできない、というくらい、痛かった。

ミガン そうね……。わたしも保育園入れなかったら、仕事なんてとてもできなかったな。生後半年もしないうちから預けたから、最初は胸がつまるような罪悪感も覚えたけど……。

未映子 その罪悪感はどこからくるの?

ミガン やっぱり子どもは3歳までは母親のそばで育てるべきだっていう「3歳児神話」やと思う。影響されていないつもりでも、どこか引きずられていたのかも。

未映子 「母親なら、子どものすべての『はじめて』を目撃したいでしょう、それを保育師さんに任せてしまって本当にいいの?」とかね。あるよね。

ミガン そうそう。保育園の連絡帳見て、「今日はじめて○○ができるようになりました」って知って、「うそー」みたいな(笑)。

未映子 出産して1年くらいは精神も不安定やし、どこに号泣の地雷があるか自分でも本当にわからない。必要以上に考えこむし、傷つくし。

ミガン でも、朝保育園の入り口で、こっちを振り返りもせず、後ろ手をふりながら急ぎ足で入ってく子どもを見ると、「ああ、楽しいんやなあ」って思えるようにもなって。

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2014.07.22(火)