2014年春に家具販売店「IKEA(イケア)」がオープンし、2015年には大型ショッピングモール「ららぽーと」が開業の予定。立川はここ10年ほどで急速に発展し、さらなる進化が期待される東京西部の中心都市だ。今回取材するのは、1日の乗降客数が15万人を超えるビッグターミナル、立川駅を中心に20店舗ほどを展開する中堅チェーン書店、オリオン書房ノルテ店。オリオン書房は「北」を意味する「ノルテ」店の他、南口側のサザン店、駅のファッションビルに入るルミネ店、文具・雑貨・書籍セレクトショップのパピルス店など、個性的なお店が多い。中でもノルテ店は、東京西部地域で一番の規模を誇る旗艦店となる。

オリオン書房ノルテ店。すぐ脇を多摩都市モノレールが走る。

 文芸担当の辻内千織さんによると、ノルテ店の商圏は広い。特に中央線沿線では、東は吉祥寺と商圏を分け合い、西は山梨県内からのお客様もあるという。八王子や多摩センターが競合といえば競合だが、品揃えなら負けない。探している本がここに来ればきっとある、と来店する本好きのお客様が多いという。岩波文庫や、ちくま学芸文庫、作品社の「日本の名随筆」や、ポプラ社の「百年文庫」、「新潮クレスト・ブックス」が並んでいるのは、かなり壮観だ。

岩波文庫、ちくま文庫がずらっと揃う。
好きな人にはたまらない、「日本の名随筆シリーズ」(作品社)。

 辻内さんが担当する文芸の棚を見せていただくと、自分でもよく読むという現代小説もしっかり品揃えしているのだが、「これは!」という本も多い。歴史に残る時代小説の名作『大菩薩峠』、最近論創社から刊行が始まった復刻版は、初出のテキストで復刻した本格派だが、これがコンスタントに売れるという。記号論の碩学、ラテン世界の教養を体現したウンベルト・エーコがその博識を注ぎ込んだミステリー『薔薇の名前』(翻訳版刊行は1990年)を、開店以来、平積みで上下巻積んでいて、これも地道に売れているのだとか。

 さらに取材の日、「注目の作家」としてコーナーを作っていたのは、ロシアの現代作家、ヴィクトル・ペレーヴィン。耳慣れない作家であっても、息長く2カ月、3カ月と置いていると、徐々に動きが出てくる。月に何度もいらっしゃる常連のお客様が、だんだんPOPを見ているうちに、「ここで買わねば」という気になってくるのに時間がかかるのかもしれない。来店のたびに好きなジャンルをチェックする本好きの常連さんを想像して、本好きの同士として頼もしい。

『大菩薩峠』、都新聞連載当時のものを忠実に復刻。

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2014.06.28(土)
文・撮影=小寺律