渋谷は、渋谷川を真ん中にしたスリバチ地形を中心に栄えた街だ。その特異な地形が、多様な都市景観を作っている。道玄坂と宮益坂が作るV字の谷を首都高速渋谷線が横断し、山手線を挟んで東急各線と地下鉄各線が交差する。地下街はエッシャーの描く立体迷路のように入り組んでおり、地上には商業施設やオフィスビルが林立し、しかも、いつもどこかが工事中。動的に変化する立体迷宮、迷わないはずはない。

渋谷駅周辺、どこかがいつも工事中。
渋谷川は童謡『春の小川』に歌われている川だと言われている。「春の小川はさらさら行くよ」で始まる、のどかな面影はない。

 そんな渋谷駅前で、ハチ公口を出てすぐ、スクランブル交差点を挟んで向かい側にそびえる巨大なディスプレイがSHIBUYA TSUTAYAの目印だ。CD、DVD/ブルーレイのセルとレンタル、ゲーム、書籍、雑誌、コミックを取り扱う、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)グループのフラッグシップ店の一つは、渋谷という街に存在感を示している。同グループの書店としては、大人な空間として代官山蔦屋書店がニュースなどで取り上げられることも多いが、TSUTAYAブランドの方が、本屋さんっぽくて好きだったりする(この連載でもTSUTAYA寝屋川駅前店をご紹介)。そびえ立つ外観の印象ほど、各フロアはさほど巨大ではなく、6階の書籍フロアもコンパクトにまとまっていて居心地のいい、落ち着く本屋さん。渋谷を通るたびについつい立ち寄ってしまうスポットだ。

SHIBUYA TSUTAYA、ハチ公からも見える巨大ディスプレイ。

 渋谷といえば若者の街、おじさん的には微妙にわからないファッションやライトノベル、ちょっと苦手な恋愛小説もある。取材時にランキング1位だった乾くるみさんの『イニシエーション・ラブ』(文春文庫)は、人気タレントが紹介したことで注目を浴び、数度目のブレイクなのだそう。ところが、オススメコーナーに取り上げる本は意外とおじさん好みだったり、王道のミステリーだったり幅広く、以前から共感をもって見ていた。

 そんなSHIBUYA TSUTAYAがリニューアルしたと聞いて、オススメ本のセレクトの熱さに注目していた竹山涼子さんと、上司の大坪智さんにお話をうかがった。

 大坪さんによると、リニューアルのターゲットは、より幅広く、渋谷に遊びに来る若者だけでなく、リアルに渋谷に働く女性に対しても、かっこいい生き方を提案していきたいとのこと。例えば、いままでだと、「美容」、「料理」、「恋愛小説」、「恋愛コミック」と、全く別の棚に並んでいたものを、恋愛の本として、同じコーナーに陳列する。文庫だって、新書だって、担当者がこれと思ったら並べてよい。同じ本がいろんな売り場にあってもいい。この本を探したい、という人には探しにくいかもしれないが、こうしたい、こうなりたいという人に提案できる売り場でありたいという。

取材にうかがったのは4月。年度の最初に「はじめたっていいじゃない」と、背中を押してくれるフェア。

<次のページ> 変わり続ける街で、いつも新鮮でいるために

2014.05.17(土)
文・撮影=小寺律