現代の彫刻家との
コラボレーションも

 1926年、パリに最初に構えたこのアトリエで生涯制作を続けたジャコメッティ。

 '66年の彼の死後、妻アネットは試作や遺品とともにその扉を閉ざし、立ち退きを余儀なくされた'80年代に考古学の技術を使い壁をも含むすべてを保存し、財団を設立した。その後も彼女はさらなるコレクションの充実に努め、'93年に他界。

 協会美術館の創設にあたり、財団は元のアトリエのほど近くに'20年代築の家を求め、ようやくアトリエの移築・展示が実現した。

 膨大な手紙や写真をはじめ、多くが未発表の約350の彫刻、90の絵画、2,000あまりのデッサンを如何に見せるか。その答えは現代に生きるアーティストの視線で構成する特別展に。

 現在はフランスの現代彫刻家アネット・メサジェによる『私たちの部屋』を開催。

 所蔵品から彼女が選んだデッサンやメモで、孤高のアーティストという印象が流布するジャコメッティの、実は多彩な交友や愛、時にジェラシーを垣間見せる「出会いの部屋」。セクシャリティをテーマに、初公開のデッサン帳や娼婦がモチーフの小像とメサジェ自身の作品が対峙する「無秩序の部屋」。ジャコメッティの彫刻をメサジェの既存作品に加え、その影絵が世界の終焉を彷彿させるインスタレーション「伝説の部屋」ほか、時代の異なる二人の彫刻家の創意が親密にクロスオーバーする全部で五つの「部屋」を展示する。

 20世紀の巨匠の大作はここにはない。が、この小さな美術館で出合うすべてが、ジャコメッティが生き、呼吸した創作の瞬間へと誘う。

 今を生きる私たちの胸に波立つ心地よき何かを想起させ、美術館へ足を運ぶ歓びを改めて思い起こさせてくれる。

L'Institut Giacometti
(ジャコメッティ協会)

所在地 5 rue Victor Schoelcher 75014 Paris
開館時間 10:00~18:00
定休日 月曜、祝日
料金 8ユーロ
http://www.fondation-giacometti.fr/
※ホームページで要予約(15分おきに30人限定)

Feature

フランスの美術館は
進化が止まらない!

Text=Chiyo Sagae
Photo=Asami Enomoto