街並みも、行き交う人も、街角のストリート作品に至るまで、パリはアートに溢れている。アーティストの生きた時間を彷彿させる個性的な美術館が毎年誕生する国、フランス。その空間に身を置くことで創作のパワーを感じさせる美術館を目当てに、旅に出よう。


現代の記録写真家の
創作援助を行う財団

●Fondation Henri Cartier-Bresson 
(アンリ・カルティエ=ブレッソン財団)

ブレッソンの人間味豊かな人となりを知る逸話の宝庫「アーカイヴの真珠」の展示。

 20世紀写真史の金字塔として語り継がれるアンリ・カルティエ=ブレッソン。彼の生涯最後の願いは、現代の記録写真家の創作援助を担う財団の設立だった。

通りから奥まった中庭が本館入口。車の元修理工場を全面改築した。

 2003年にその開館を見届けたその翌年に他界した彼の遺志を継ぐ財団美術館が、今年11月にマレ地区へ移転オープンした。

【ありのままの世界の美を慈しむ視線】
世界を旅し、切ないほどに輝き、消え去る瞬間を切り取ったM.フランク。自尊心と他者への敬意を併せもつ女性のたおやかな視線が捉えた、生涯の旅の写真が一堂に。マルティーヌ・フランク展 ~2019年2月10日(日)。上から、マルティーヌ・フランク《スイス、バーゼル、カーニバル》、マルティーヌ・フランク《ベルギー、バンシュ、カーニバル》

 グランドオープンを飾るのは、ブレッソンの妻で写真家のマルティーヌ・フランクの回顧展だ。

 1960年代にアメリカの有力誌で活躍し、'70年に30歳上のブレッソンと結婚。夫は写真からデッサンへ活動を移す時期にあったが、彼女は世界を巡り、人々の日常のなかに煌めく生命の不思議と歓びを捉えることで、それらを妨げる社会へ抗議を伝え続けた。

 晩年は財団の設立を担い、2012年に他界した彼女の凜として温かな視線を宿す写真が一堂に会す貴重な機会だ。

展覧会場の入り口に、夫妻のプライベートポートレートを映写する。二人を捉えたこの写真はオートフォーカスでM.フランクが撮影。

 展示室前のフロアにはブレッソンが妻を、妻が夫を撮影した貴重なポートレートが映写されている。自身の姿を撮影させないことで知られた巨匠の親密な素顔は、最愛の女性だけが捉えられた、これもまた20世紀の「決定的瞬間」なのだろう。

通りに面した財団美術館のウインドウ。

 二人が財団に託したプリントはそれぞれ3万枚に及ぶ。ネガや印刷物を合わせた膨大な資料を元に新設した「アーカイヴの真珠」も見逃せない。

 3カ月毎に更新する展示は、ブレッソンの写真のコピーとともにその写真の知られざる真実や逸話を披露する。

書籍やポストカードも豊富なブックストア。

 一方、オリジナルプリントのブレッソン展は2019年から。これまでも夫妻が設立した現代の写真家を援助する「HCB賞」の作品展示に空間を優先してきた財団。

 「ブレッソンの写真展示のためにも、以前の倍の広さがあるここに移転したのです」と語るフランソワ・エベル館長。

 自分より未来の可能性に――そう願った写真家の遺志とともに、財団美術館は進化を続ける。

左:アルルの国際写真フェスティバル、マグナムのディレクターほか、フランス写真界の重職を担ってきたフランソワ・エベル館長。
右:死を悟ったM.フランク自身が2011年から準備したという回顧展。

Fondation Henri Cartier-Bresson
(アンリ・カルティエ=ブレッソン財団)

所在地 79 rue des Archives, 75003 Paris
電話番号 01-56-80-27-04
開館時間 11:00~19:00
定休日 月曜
料金 9ユーロ
http://www.henricartierbresson.org/

Feature

フランスの美術館は
進化が止まらない!

Text=Chiyo Sagae
Photo=Shiro Muramatsu

この記事の掲載号

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在は異なる場合があります。