正直、オペラばかりは、本場の劇場で観ると緊迫感が違うのだ

 2021年、権威あるショパン・コンクールで反田恭平が日本人として51年ぶりの2位入賞を果たし、日本のマスコミも大いに盛り上がった。

 ただ大きなニュースにはならなくても日本人が海外のコンクールで入賞するのは少しも珍しいことではなく、音楽愛好家の中には日本人が出場する国際的コンクールめがけて、旅する人がいる。当然贔屓の指揮者や演奏家を追いかけて、世界中を旅する人も。国が変われば、音も変わり、違った感動があるからと。

 同じ意味で、日本人演奏家の音を海外で聴くのはまた格別の趣があるもの。私も、今世界で引っ張りだこのピアニスト藤田真央の追っかけ旅行をライフワークに加えようと目論んでいるが、それも彼らを支える使命感と達成感も手伝って“勝手に随行旅行”する人々は完璧に幸せそうだったから。

 ただオペラの場合は状況が少し違う。圧倒的な声量とスタミナを要するオペラでは、やはり体格の問題なのか、世界的な活躍を見せる日本人オペラ歌手は歴史的にも非常に少ない。いや昨今、韓国人や中国人歌手の活躍は目覚ましいから、骨格のせいばかりではないはずだ。

 破裂音の少ない日本語を母語とすることや、自己肯定感の低さなどの国民性も理由に挙げられているが、どちらにせよ、海外でオペラを観ても日本人の名を見つけることは極めて稀。それでもワーグナー歌手である藤村実穂子や、イタリアオペラで破竹の勢いを見せる脇園彩などメゾソプラノには世界が認める逸材がいるのに、オペラの花形たるソプラノ歌手となるとなかなか……。

 そんな中、あるソプラノ歌手が改めて注目を浴びている。記憶に新しい“天皇即位の祝賀式典”で国歌を独唱、あの人は誰? と騒がれた森谷真理である。日本での知名度は高くはないが、それも海外でキャリアを積んできた人だから。

 しかも日本人が比較的抜擢されやすい「蝶々夫人」のみならず、超絶技巧を要するソプラノ最大の難曲「魔笛」の“夜の女王”を歌える稀有な存在として知られていた。

 この役はコロラトゥーラと超高音が求められる上に力強さや激しさも必要で、特に「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」でのスタッカート付きの高速パッセージは形容しがたいほどの強烈な音の羅列。一度聴いたら忘れられない。

 その難役を世界の舞台で成功させた日本人などいないと思っていたら、何とこの人は、それをメトロポリタン劇場で歌って絶賛を浴び、以降世界で数々のオファーを受けているのだ。

 実は驚いたことにウィーンの歌劇場・フォルクスオーパーで私もこの人の“夜の女王”を聴いていた! 不覚にもその時はまさか日本人と思わずに。

文=齋藤 薫