「東京ラブストーリー」「わたしたちの教科書」「Mother」「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「Woman」「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「anone」──。

 数々の脚本を手がけてきた坂元裕二さんの作品世界に迫る単行本『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット刊)が発売されました。延べ13時間にわたったインタビューの中から、紙幅の都合で単行本に載せられなかった未公開テキストを、全4回にわたってお届けします。

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Interview 03
「あのドラマ」の
「あのシーン」ができるまで partII

 フジテレビ ヤングシナリオ大賞を受賞したデビュー作から「anone」まで。『脚本家 坂元裕二』には坂元さん自身が解説する「全ドラマ作品年表」が掲載されている。ここで紹介するのは、単行本に入りきらなかった3作品のエピソード。

■「Mother」

三姉妹の物語になる予定だった

──『脚本家 坂元裕二』に掲載している「Mother」の履歴書(登場人物表)には、奈緒(松雪泰子)とふたりの妹の背景が詳細に書き込まれていました。当初は三姉妹の物語になる予定だったのでしょうか。

坂元 三姉妹の話って定番だし、いつかやりたいと思ってたんですね。まず長女の話を考えたんだけど、それだけで連ドラ1本分になると思わなかったので、三姉妹の話も交差させながら次から次へといろんなことが起こるお話にしようかなあと思っていました。

 当時は話をたくさん盛り込むことが大事だと思ってたんですね。でもプロデューサーが「いや、長女の話をメインでいけるんじゃないか」と言ってくれて、それから軌道修正して。妹たちの話も挿話としていれながら、長女のお話を中心に書いていきました。

──「Mother」で道木怜南を演じた芦田愛菜さんと初めて出会ったときのことを教えてください。

坂元 普段はオーディションに行かないんですけど、「Mother」プロデューサーの次屋(尚)さんに「ちょっと揉めてるから来てくれ」って言われて、日本テレビのリハーサル室に行ってドアを開けたら、最後まで残った5人が並んで座っていて。パッと見た瞬間、「あ、あの子だ」と思ったんです。変な話ですけど、オーラを見たのは愛菜ちゃんが最初で最後です。

 道木怜南は小学1年生という設定なので、ほかの子は1年生から3年生ぐらいまでのちょっと大きい子だったんだけど、愛菜ちゃんはひとりだけ幼稚園の年中さんだったんです。一番幼かったけど、明らかにたたずまいが違っていました。特別な子っていうのはいるもんなんだなと思いましたね。

──瞬く間に人気者になり、今もなお女優として活躍されている芦田さんをどのようにご覧になっていますか?

坂元 活躍を見るたびに「あ、大きくなったな」と思いますね、普通に(笑)。親戚の子供の成長を見るように、嬉しい気持ちになります。

 「Mother」の8話で、実の母の仁美(尾野真千子)が訪ねて来て、愛菜ちゃんが「もうお母さんじゃない」って追い返したあとに松雪さんの胸で泣くんですけど、胸をかきむしられるような泣き声でした。どうしてあんな風に泣いたんでしょうね。技術とかじゃないし、5歳の芦田愛菜ちゃんがどんなふうに感情を作ったのかもわからないし、本当に不思議です。あれはすごかった。

 道木怜南の役が芦田愛菜ちゃんになったときに、「もしかしたらこの子の人生を変えてしまうのかもなあ」って頭をよぎったりもしましたけど、それは大きな間違いで。愛菜ちゃんの本質はあれから何ひとつ変わらず、いろんなものを全部自分の力にしながら、活動の範囲を広げていってるように思えます。持って生まれたものとしか言いようがないですよね。

 こないだ雑誌『BRUTUS』に愛菜ちゃんが田中裕子さんをおんぶしている写真が載っていたんですけど、そのページを切り取って額に入れて飾っています(笑)。

2018.11.02(金)
構成=上田智子