Jポップとウォシュレットの共通点とは?

山口 秋元さんに認められてデビュー曲に採用されるとは快挙ですね。この曲は、中西哲郎とPENGUINS PROJECTのコーライティング曲。中西さんは「山口ゼミ」(外部サイト)1期生ですが、55歳の超遅咲きデビューです。講座の中で「センスが古い、アレンジがダサい」と、さんざん伊藤さんからダメ出しされ続けていましたね。「伊藤斬り」と名付けたのは僕ですが、今や山口ゼミの“名物”となっています。彼は斬られても斬られてもデモを作り続けて、その努力がやっと実った感じです。

伊藤 そうでした(笑)。「Come on! Come on! Come on!」はデモの段階からかなり興味深い曲だったんだけど、レコーディングを重ねるにつれてどんどんスティービー色にブラッシュアップされて、最終的にはスティービーそのものというか、「Xファクター」で様々な曲をカバーしていた彼の集大成という感じにフィックスされました。曲自体はロックで、決して新しい音楽ではないんですけど、Jポップとイギリス人シンガーという組み合わせが、面白い世界観を醸しています。

山口 そもそもこのプロジェクト自体が興味深いです。日本文化が好きなイギリス人シンガーを日本人プロデューサー、クリエイターがプロデュースするというのが面白いですね。歌謡曲~ニューミュージック~Jポップと名称は変わりますが、日本のポップスは常に、アメリカ、イギリスから輸入した音楽を日本流に改良して作ってきました。日本人の細かさやオタク的な要素、洗練されたユーザーの存在が、ガラパゴスと言われるほどの独自進化を遂げさせたのは、音楽だけではなく、Jカルチャー全般に見られる現象です。

伊藤 そうです。日本人は輸入したものをただ模倣するだけでなく、日本人向けにローカライズする能力に長けています。例えばトイレの便座、第二次世界大戦の頃まではしゃがんで用を足す和式便器しかなかったけど、戦後には西ヨーロッパから座って用を足せる洋式便器を輸入するようになった。80年代には、TOTOという日本の住宅設備機器の製造メーカーがウォシュレットの開発・販売をして、いまや日本人にとってウォシュレットは当たり前の存在になった。一家に一台どころが、公衆トイレにだって設備されているし、ウォシュレットがなければ用を足せないって日本人までいる。ところが海外でウォシュレットに出逢うことはいまだにない。2000年代に入ってから、映画のプロモーションなどで来日するハリウッドスターたちが、ウォシュレットの魅力に取りつかれ、購入し持ち帰るということが起こり、海外のセレブリティの間ではかなり浸透してきた。このウォシュレットこそが日本人のローカライズの象徴的な出来事で、清潔好きな日本人ならではの発想であり、それを形にする探求心がある。だけどそれが特別な能力という意識は少なく、それを輸出して世界に広めようってところまでいかないところがまた島国気質というかビジネス下手というか。まぁ、だからこそガラパゴスという現象が起こりうる希少なナショナリティですよね。

山口 そうですね。本コラムでも何度か話しましたが、Appleのスティーブ・ジョブズは、SONYのウォークマンとNTTドコモのi-modeをヒントにして、iPod/iPhoneと、iTunes Storeというビジネスモデルを考案したと言われています。ガラパゴス的進化は悪ではなく、それをグローバルに汎用して、ビジネスにする志向を持てないのが日本人の弱点なんです。

2016.03.15(火)
文=山口哲一、伊藤涼