お旅所の芝舞台で奉納される貴重な芸能

◆ お旅所祭

お旅所祭「東遊」。

 行列の全てがお旅所に到着すると14時半より約8時間にわたる神事が行われ、数々の貴重な芸能がお旅所の芝舞台で奉納されます。

 ずっと立ってご覧になるツワモノもおられますが、保存会に入っておくと芝舞台両脇の茣蓙を敷いた席に入ることができます。

 神楽、東遊(あずまあそび)、田楽、細男、猿楽、和舞。舞楽10番ほど舞われます。

 おん祭でしか見ることのできない貴重なものが色々あります。「東遊」は子供たちによって舞われ、大人に負けない舞振りに、つい応援の気持ちが高まります。

 特に珍しいのは細男(せいのお)でしょう。神功皇后の前に現れた海神の故事にちなむもので、白い覆面をしているのは顔が貝に覆われて醜いためといいます。

 行宮の瓜灯籠に火が入り、篝火が焚かれると、いつしかとっぷりと日が暮れています。

◆ 還幸の儀

 時刻はすでに22時。私がいちばんご覧いただきたい還幸の儀が近づいてきました。とはいえ撮影、私語は厳禁ですのでマナーをお守りくださいますようおねがいします。

 最後の舞楽「落蹲(らくそん)」が始まると、お旅所を抜けだし、一足先に参道にある神苑あたりに向かいます(※最後までお旅所にいると行列の最後尾に加わることになりますので、行列を見たい人は先廻りをする必要があります。神苑あたりが一番長く行列を見ることができる、私のおススメポイントです)。

 自動販売機も街灯も全て消された暗闇を、本殿まで続く参道の松の木に縁取られた星空を頼りに進みます。参道の松の木の向こうには星明かりに蒼く照らされた飛火野が海のように広がり、とても幻想的です。

 神苑の前でしばらく待機していると舞楽の奏楽が止み、お旅所祭が終わったことが気配でわかることでしょう。

 浄闇を目を凝らして見つめていると、雅楽の音色とともに、火の粉でできた筋が地面から湧き上がるようにじわじわ伸びながらこちらに近づいてきます。そのうち大松明が引きずられ、火の粉を叩き落としながら行列を先導しているのがわかるでしょう。

 ふんだんに焚かれた沈香の気高い香りが立ち込めたかと思うと、榊の枝で幾重にも隠された御神体が通り過ぎます。神職さんたちは「おーーーおーーーー」と口々に警蹕の声を上げています。

 楽人の後に崇敬会の一団、そして最後までお旅所に残った一般の人たちが続き、みな神職さんと同様に声を上げています。

 帰りの還幸の儀の方が、若宮さまも神遊びにご満足され神威が増しているように感じます。人々も気分が高揚し、楽もテンポアップした曲が奏されます。楽人の中には友人が何人かいるのですが、暗闇で顔など全くわかりません。長時間の演奏に敬意と感謝の気持ちで手を合わせるばかりでした。

 さて、すでに終電に間に合うかどうか微妙な時間です。駅に走るもよし、若宮さまを最後まで送り届けたい人は最後尾に加わるもよし。

2015.11.28(土)
文・撮影=中田文花