密猟で母を失い孤児となった虎がきっかけに

 それにしても、なぜ、ここにこれほどまで多くの虎がいるのか。それは、今から十数年前の冬のある日、この寺に、密猟で母を殺された1頭の赤ちゃん虎を、村人が運び込んだことがきっかけなのだという。子虎を大事に育てる寺の噂を聞きつけた人たちが、孤児となった虎を見つけるたび寺に託すように。当然、繁殖もすることから、いつしかここは、僧侶と虎とが共生する寺へとなってしまったのだという。

本堂でくつろぐ虎たち。散歩(?)や餌やりは、基本的に僧侶の日課なのだそう。

 タイガー・テンプルで生まれた虎たちは一生をここで過ごしている。成長して野生に還ることはない。つまり、彼らはみんな、生まれながらにして「お寺の子」。人間に頭を持たれても平然としていられるのは、野生を知らないからこそなのだろうか。

 もちろん、これだけの虎を飼育するには、それなりの餌と人手が必要だ。120人ものスタッフと僧侶の生活費に虎の餌代に治療代……。それらを賄うべく、寄付金を募るほか、有料の観光施設として一般開放したところ、世界中から旅行者が集まるようになったという。

 とはいえ、猫好きとしては、心境が複雑になるタイガー・テンプル。虎が本来の姿で暮らせないのは気の毒だし、なにをするにも高額の料金を払わなければならないのも、ちょっと残念。さらに、夜行性とはいえ、彼らが撮影の間じゅう眠りこけているのも、ちょっと気になるところ。孤児となった子虎を育てた話は心温まる真実として、この寺が、これからも慈悲深い気持ちで虎を見守ってくれることを、願うばかりだ。

暑い日中、水たまりに浸かって涼をとる虎。すっかり野生味は抜け、その姿は「お寺の子」。

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn

Column

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2015.03.24(火)
文・撮影=芹澤和美