【KEY WORD:「すき家」のストライキ騒動】

 牛丼チェーン「すき家」の従業員たちに向けて、5月29日の「ニクの日」にストライキをしようとネット上で呼びかけるという騒動がありました。実際にはストは不発に終わったようなのですが、わたしはこれをまったく新しい動きとして注目しています。

 そもそも「すき家」では以前から、労働条件のひどさが指摘されていました。「ワンオペ」という、深夜にはたったひとりで店舗を回さなければならない勤務態勢となり、仕事が超忙しいだけでなく、強盗に遭う危険性も高まってしまうこと。アルバイトなのにノルマがあって、達成できないと時給が減らされてしまうこと。そしてアルバイトは雇用されているのではなく、「すき家」とのあいだで業務委託契約を結んでいる個人請負ということになっていて、社会保険も出なければ、労働法も適用されない関係にされてしまっていること。

 こういうことに反発するアルバイトの人はかなり多いようで、最近は景気が上向いてきたこともあり、「すき家」をアルバイトが大量に辞めるような状況になっていました。閉鎖している店舗も多いようです。そういう中で起きたのが、今回のスト騒動。

 とはいえ、この呼びかけはストと言えるようなものではありませんでした。そもそもストは「給料を上げる」とかそういう結果を求めるための行動で、落としどころを用意していないストはストとは言えません。またストは働く人の権利を守るかわりに法律で細かく決まりが定められていて、たとえば会社には事前通告しないといけません。ネットで呼びかけただけではストとは言えないでしょうね。

 だからこれはストではなく、あくまでも「抗議行動」だったのだとわたしは捉えています。

若者の非正規雇用の問題が放置

 いまの20代、30代の非正規雇用の人たち、いや非正規雇用の人だけでなく、正社員であってもブラック企業のようなところに勤めざるをえない若い人たちの雇用の問題に、日本社会はまともに向き合えていません。連合などの労働運動は、中高年の正社員の雇用を守るだけで精いっぱいで、若者の非正規雇用の問題を放置してしまっています。政治もそうで、結局は人数が多くて投票率の高い中高年や高齢者のための政策が中心になってしまっており、「シルバー民主主義」なんて呼ばれています。ここでも若者は放置。

 非正規雇用の人たちの雇用の問題には、合同労組などの取り組みもあります。しかし合同労組には左翼的なイデオロギーの強い組織が多く、非正規雇用を守る運動とともに「反原発」「改憲反対」「TPP反対」「死刑廃止」などがセットになってしまっているケースが多い。こういうイデオロギーに賛同できる若者がそんなにたくさんいるのか? と考えると、ちょっと疑問です。

 こういう中で、非正規雇用の若い人たちの中から自律的に、ネットを介した抗議行動が現れてきている。これは言ってみれば、社会から放置され、それに対するやり場のない憤りがマグマのように溜まり、それが小規模噴火によって噴出したのだ、というようなことではないかと思います。だからこういう小噴火は今後も起きていくでしょうし、さらには政党なり運動組織なり、なんらかの形でそれらの小噴火を引き受けて回収する存在が出てこなければ、大噴火になっていく可能性も秘めていると思っています。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.06.06(金)
文=佐々木俊尚