【KEY WORD:限定正社員】

 ユニクロが、お店で働いているパートやアルバイト約3万人の半数を、「限定正社員」にする方針を決めて、話題を呼んでいます。限定正社員というのは、仕事の内容や働く場所が契約で決まっている社員のこと。普通の正社員は転勤があり、仕事の内容も異動にともなってつぎつぎ変わっていくのが普通ですが、限定正社員はたとえば「福井県で店長の仕事」と会社との契約で決まれば、福井から出なくてもいいし、店長以外の仕事に異動させられる心配もないということなんです。

 限定正社員というのは耳慣れないことばですが、去年の春に労働契約法が改正されて初めて作られた制度です。ではなぜ今、このような制度が出てきたんでしょうか。

 グローバル市場で企業の競争力がきびしく問われるようになり、中国や東南アジアの安い人件費との競争にもさらされて、日本人の高給を維持するのが難しくなっています。このため日本企業はどこも正社員の雇用を減らし、給料の安い契約社員や派遣社員など、非正規雇用を増やしてきました。この結果、非正規雇用の割合は4割近くにまで達してきています。団塊ジュニアのような就職氷河期の世代では、正社員になれないままだんだん中年になってきてしまう人たちがたくさん現れてきました。

 この結果、生活の安定している正社員と、不安定な非正規雇用のあいだの格差がどんどん広がっています。非正規雇用だと生活設計ができないため結婚もままならず、少子高齢化に拍車をかける原因のひとつになっています。かといって海外企業と戦っている日本企業にただ「正社員を増やせ」と命じるのも無理難題というものでしょう。

 そこで中庸の策として考えられたのが、限定正社員。非正規雇用よりも待遇を良くして、しかも無期雇用で生活を安定してもらおうということなんですね。

社外の人間関係を大事にするライフスタイルに

 普通の正社員とくらべると身分が低いように思われるかもしれませんが、これは今の時代の仕事のやりかたにも実はマッチしているのです。

 これまでの正社員は、いったん会社に入るとあちこち転勤させられ、あちこちの部署を異動させられるのが一般的でした。勤務先の会社への忠誠心は高まるかもしれませんが、将来の転職や独立に備えて専門性を身につけたり、社外のさまざまな人たちとつながりを作るような社外活動はやりにくかったのが現実です。

 しかし限定正社員であれば、職務は決まっていますし、勤務地も一定ですから、自分の専門性を見定め、社外の人間関係を大事にしていくという働き方を実現しやすくなるでしょう。いまは東京に出て行くより、地元に愛着を持って地元に住み続けたいと考える人も増えていますから、そういうライフスタイルにもマッチしていると思います。

 生活を安定させ、自分自身でライフプランを考えていくような時代には、このような制度がさらに広がっていくことを期待したいですね。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.04.25(金)
文=佐々木俊尚