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村田沙耶香さんの小説がすごく好き

――しかし先程おっしゃっていたようなコストの壁は厳然とあるわけですよね。

 そうです。うちの局が特にそうなのかもしれないですけど、地方局だと、制作費を回収する目処が見えていないとつくらせてもらえないんですよね。なので、方便でもいいから収益確保の算段を提示する必要がありました。『ZEKKEI NETA CLUB』の第1回では放送終了後にオンラインライブを開催してその売り上げで制作費を回収するという事業計画書をつくって、何度かやりとりしてやっと着手できました。

――そうした苦難を経て実現した制作はいかがでしたか?

 初めての自分の番組だったので、もう楽しくって。ただ、楽しすぎたせいで自分の制作人生で一番の失敗もやらかしました。1日目のロケ終わりで囲碁将棋さんと制作班で打ち上げをしたんですけど、飲みすぎて翌朝に寝坊したんですよね……。それまで寝坊なんてしたことなかったんです。後で囲碁将棋の文田さんから「二木さん、打ち上げの後にセイコーマートでストロング缶2本買ってましたよ」って言われて、全然覚えてなかったんでびっくりしました。あの日の5分の遅刻は入社からの5年間で最大の反省点です。もうスト缶は買いません。

――5分で済んで良かった(笑)。『ZEKKEI NETA CLUB』は漫才がメインではありますがそれこそ絶景スポットに行ったり地元の施設やお店でロケもしたりと、いろいろな要素が入っていますよね。

 ただのネタ番組ならキー局でいいだろうという話になるので、何か違うことや新しいことをしたいと思っていました。私自身、発明性がある番組がすごく好きなんです。

 それと、私は美しくお笑いをやりたいんですね。美しさと笑いが共存できたら理想的というか。言い方が変かもしれませんが、漫才でも美しいものが好きなんです。囲碁将棋さんもそうだし、カベポスターさんやキュウさん、オズワルドさんなどの漫才は見ていて「綺麗だな」と思います。番組でもそういうものをつくれたらと考えていました。『ZEKKEI NETA CLUB』で食レポのシーンがあるんですけど、普通はタレントさんが何か食べたらその食べ物のインサートに移行しますよね。それだとつまらないから、芸人さんが絶景の中でものを食べている映像に切り替えることにしたんです。

――(囲碁将棋の)根建さんがメリーゴーランドに乗りながらモグモグしている場面、印象に残ってます。ドリーミーな雰囲気がありました。

 村田沙耶香さんの小説がすごく好きなんですが、あんな風に世界の境界線を揺るがすようなものをつくりたいというのは自分の中のテーマとしてあるかもしれません。世界を飛ばしたいというか。

2023.12.06(水)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖