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 東京・上野動物園で生まれたメスのジャイアントパンダのシャンシャン(香香)が中国へ渡っておよそ8カ月。ついに一般公開が始まりました。どのような暮らしぶりなのでしょう。単独で訪れた筆者が現地の様子をレポートします。


 豊かな自然に囲まれながら、タケノコをほおばり、時おり目を閉じて顔をのけぞらせ、おいしそうな表情を浮かべるシャンシャン(香香)。食べ終わると、次のタケノコを手(前足)でつかんだり、後ろ足で器用に持ち上げたりして、次々と口に運びます。

 ここは、四川省にある「中国ジャイアントパンダ保護研究センター」(以下、パンダセンター)の「雅安碧峰峡(があんへきほうきょう)基地」(以下、雅安基地)。シャンシャンは生まれ育った上野動物園を離れ、2023年2月21日(火)に雅安基地へやって来ました。

 上野動物園にいた頃のシャンシャンは「基本的には穏やかな性格」(同園の大橋直哉教育普及課長)。ただ、2022年7月に園内の他のパンダ舎で1週間過ごして戻った際に落ち着かず、物音に反応してエサを食べる量が減るなど、繊細なところもありました。中国に来たときも緊張していて、臆病な一面も見せていました。そのためパンダセンターは、シャンシャンが新たな環境に十分慣れるように、公開まで時間をかけていました(参照「シャンシャン中国輸送大作戦の舞台裏」)。

 雅安基地によると、シャンシャンは複雑な地形の庭で「かくれんぼ」をするのが好きで、担当の飼育員さんは毎日、広い庭を歩き回り、シャンシャンを探しました。飼育員さんが呼ぶ声にシャンシャンは次第に慣れ、ほかの飼育員さんたちとも打ち解けていったそうです。

 そして10月8日(日)、ついに中国での公開がスタートしました。中国は9月29日(金)~10月6日(金)が大型連休で人の移動が大幅に増えるので、シャンシャンの繊細な性格と観客の安全を考慮し、大型連休を終えてから公開に踏み切りました。筆者は公開から2日後の10月10日(火)に中国へ行きました。

 上野動物園にシャンシャンがいた頃の観覧は、基本的に歩きながらで立ち止まれず、観覧までに1時間ほど並ぶのは当たり前。4時間並んだこともあります。また、撮影時は立ち止まりがちになって密集するため、新型コロナウイルス対策で撮影が半年近く禁止されたこともありました。抽選制と整理券制の数カ月間は立ち止まることができましたが、「1カ所につき30秒で計4カ所」といった制約があり、じっくり見ることは不可能でした。

 それが雅安基地では無制限に観覧・撮影できるのです。ついに憧れのシャンシャン見放題……! と思いきや、そうはいきませんでした。

2023.11.11(土)
文・撮影=中川美帆