偏見を持っていたミュージカル界へ

――ちなみに、田代さんにとっての憧れの歌手は?

 小学校のときは、体も大きくて、声もドーンと出る父親に憧れていましたね。その後は僕の名前の由来にもなっているマリオ・デル=モナコだったり、もちろん三大テノール(プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス、ルチアーノ・パヴァロッティ)とか……もうカッコいいんですよ! そういう方の存在があまり知られてないことがもどかしかったので、ならば逆にクラシックじゃない音楽の世界を知るきっかけになるかなと思って、「エスコルタ」をやることにしたんです。

――そして、09年には「マルグリット」のアルマン役でミュージカルデビューを果たします。このときも、オーディションですよね?

「エスコルタ」で僕を知ったプロデューサーさんが声をかけてくださったんです。「マルグリット」はたまたまオペラで有名な「椿姫」をベースにしたミュージカルだったんですが、作曲がミッシェル・ルグラン。かなりクラシック寄りの作品だったことが大きいですね。さらに、世界初演だったロンドンで作品を見たときに、僕が思っていたミュージカルとは全然違う、と衝撃を受けたんです。マイクを使うので、どこかポップス歌手のようなイメージを持っていたんですが、マイクを使いながらも、生声がどんどん聞こえてきたんです。どこか自分の中であった「ミュージカルよりオペラの方が上」というような偏見が崩されました。あのときミュージカルデビューしたことが大きな転機になりました。

――それでは、その後のキャリアのなかで、もっとも大変だった作品は?

 翌年の「エリザベート」ですね。僕が演じたルドルフという役の出演時間は、全部で20分ぐらいしかないんです。実在した人物なんですが、どんどん孤独になっていき、最後に自殺する役なので精神的に追い込まれました。そして、なにしろ初めてダンスというものを踊ったんで……キツかったですね。

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2013.09.20(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Tadashi Hosoda
hair&make-up:Yasuhiro Fujii(igloo)