二風谷
(Nibutani/にぶたに)

 2018年、命名から150年を迎えた北海道。名付け親である開拓判官・松浦武四郎は当初“北加伊道”の文字を示したという。“カイ”とはこの地に生まれたものを意味するとのアイヌ古老の教えをもとに、太古の昔よりこの地で暮らす人々への思いが込められたのだ。


聖なる川の畔に息づく
美しきアイヌのモノづくり

 アイヌとは“カムイ(神)”に対しての人間の意味。その先祖たちは雄大な大地と大海原を自由に駆け巡っては狩猟・漁労を中心とした暮らしを送り、本州や樺太、さらには大陸との交易を盛んに行うなど、多彩な一面をもつ民族だったという。

 また、縄文カルチャーを色濃く受け継ぎながら、アイヌ語という全く独立した言語を操り、語り継がれてきた“ユカラ(英雄叙事詩)”をはじめとする文学は詩的で美しく、自然とともにある幻想的な宇宙観は、改めて注目を集めている。

 これまで北海道でアイヌ文化に触れられる場所としては、白老、阿寒などが知られてきたが、日高地方の二風谷は、昔ながらのアイヌのモノづくりが息づく希少なエリアだ。

 住民の多くがアイヌだといい、小さな地域には伝統を守り抜く作家たちの工房が身を寄せ合うにように佇んでいる。2013年には、この地で作られてきた“二風谷イタ”“二風谷アットゥシ”が経済産業大臣指定「伝統的工芸品」となり、制度制定から40年目にして初となる北海道からの指定という快挙を成し遂げた。

 アイヌ語が口承言語であったことから、文字による記録が少なく、指定にあたっては様々な困難を伴ったが、作品ひとつひとつに凝縮した美しい世界観は唯一無二であり、その素晴らしさは一目瞭然。奥深い魅力に惹き込まれることだろう。

 約1万年前の石器が出土するなど、太古より人々が暮らしてきた二風谷。現在では、アイヌのかつての暮らしぶりを伝えるミュージアムが点在し、古いコタン(集落)を再現した一角では、北の原風景ともいうべき情景に出会うこともできる。

 なお、寒気に包まれる冬季は休館・休業となる施設もあるが、まさにこの時季こそが作家たちにとっての創作のシーズン。花咲く春の訪れとともに、二風谷には新たな作品が満開となる。

 ひとたびアイヌのモノづくりに魅了されたなら、誰もが春の到来が待ち遠しくなるに違いない。

【ACCESS】
二風谷への行き方

●車で新千歳空港から約60分、札幌から約110分。
●高速バスで札幌から約130分、特急バスで苫小牧から約100分(資料館前バス停下車)。※詳細は道南バスのホームページなどを参照。

取材・構成・文=矢野詔次郎
撮影=小野祐次
地図製作=シーマップ