イタ

 風格を感じさせる質感とそこに施された独特の文様……。木板の上に作家たちの感性が横溢する二風谷イタは、一枚一枚異なる表情がえもいわれぬ魅力を醸し出す。


アイヌの美意識を
象徴する伝統工芸品

北海道初の伝統的工芸品に指定されたアイヌ伝統の “二風谷イタ”。二風谷には、今もなお古いモノづくりが受け継がれている。

 イタとは、アイヌの暮らしのなかで欠かすことのできないお盆のこと。とりわけ精緻な文様を彫り込んだものは、神へ捧げる儀式の際にも用いられたといい、まさにアイヌのモノづくりを象徴する工芸のひとつだ。

貝澤守さん作の二風谷イタ。左から:正方形 28,000円~、長方形 33,000円~(二風谷工芸館)。

 かつてアイヌの間では、木工は男の仕事だったという。刃物を巧みに使いこなし、狩猟のための弓や罠などの道具を作ることは男にとって必須の能力。つまり、木工の上手さは、狩りの上手さにも直結したのだ。

父である先代から伝統の技を受け継いだ貝澤守さん。21歳から木彫刻に専心してきた。

 各地で地域特有のイタが作られたなか、二風谷イタの特徴は、“モレウノカ(渦巻き)”“シクノカ(目)”などの文様が必ず取り入れられ、その間を埋めるようにウロコ彫りが施されているところ。一枚の木板いっぱいに表現される世界観は圧倒的で、これらの文様には、邪神や病気から身を守る魔除けの意味もあったとされる。

イタの素材には、クルミ、カツラなどが用いられる(高野繁廣さん作)。

 江戸・安政年間には幕府にも献上されたという記録が残る二風谷イタ。その凜とした美しさは時代を超えてなお、決して失われることはない。

イタ作りに使われる道具も、自ら手作りする。

奥深きアイヌ木彫りの世界

 現在も熟練の作家たちが二風谷イタの伝統を守りながら、独自の作品を生み出している。

“ハンクチョッチャ(蜻蛉)”100,000円(貝澤徹さん作)。
高い技術と優れた芸術性で、アイヌ伝統工芸に新たな価値を創造する貝澤徹さん。先日、作品が大英博物館に収蔵された。
大きな鮭もさばける“メノコイタ(まな板)”324,000円(高野繁廣さん作)。
高野繁廣さんは東京出身。北海道無銭旅行の途中、二風谷でアイヌの木彫に出会って以来この地で暮らし、約半世紀の作家歴をもつ。

取材・構成・文=矢野詔次郎
撮影=小野祐次
地図製作=シーマップ

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