額に稲妻の傷跡をもつ魔法使いの少年の物語『ハリー・ポッターと賢者の石』が英国で出版されたのは、1997年のこと。当時は無名の作家だったJ・K・ローリングによる初版わずか500部から始まったハリー・ポッター・シリーズ全7巻は、この20年間で世界80言語に翻訳され、総計販売部数4億5000万部以上という歴史的な数字を記録、映画も大ヒットを博しました。
子どもだけでなく、大人をも魅了したこの作品のマジカルな世界に浸れる、英国内のスポットを巡る旅へとご案内しましょう。
ロンドン「大英図書館」で開催中
ハリポタの魔法の歴史を探る特別展
前回ご紹介したセントパンクラス・ルネッサンス・ホテルから西に向かって歩くこと5分。1億5000万以上もの膨大な文献・資料を擁する世界最大級の図書館、大英図書館のPACCARギャラリーで2018年2月末まで開催しているのが「ハリー・ポッター ヒストリー・オブ・マジック」展です。
同図書館をはじめ、他の提携博物館の資料をひもとき、ハリー・ポッターの物語の背景に潜む魔法の歴史を探りつつ、作者J・K・ローリングの所有する未公開のメモやノートをまじえて、ハリポタ・ワールドをより深く理解できるエキシビションです。
ハリー・ポッターは、J・K・ローリングによるフィクションではありますが、物語に登場する設定やモチーフの多くは、作者の綿密なリサーチによる史実をもとにしています。現代では「科学」と呼ばれる分野が、古代、中世では「魔法」として扱われていたことを考えると、ホグワーツの授業内容もあながち夢物語ばかりではないのです。
ギャラリーの内部は、薬草学、占い学、はたまた闇の魔術に対する防衛術など、ホグワーツの科目のごとく構成され、歴史的な資料が展示されています。今回は、それぞれのセクションから興味深い展示物を取り上げて、ご紹介しましょう。
右:最初の部屋に向かう階段。期待が高まります。この手前には、1995年にローリングが各出版社に持ち込みのために送ったハリー・ポッターのシノプシスも。
まずは「魔法薬学(Potions)」の部屋へ。
右:「魔法薬学」の部屋には自分で配合できるインタラクティブな設備もあります。
物語のなかでは、スネイプ先生、そしてスラグホーン先生が教えていた科目です。
ここには、ヘビやニワトリを大釜に投入しようとしている魔女の姿が描かれた1489年の文献が展示されています。魔女の姿が出版物に掲載されたのは、これが初めての例とのこと。その後500年以上にもおよぶ魔女のイメージを決定づけた、元祖魔女のイラストです。
また、テムズ川で見つかった紀元前800年の大釜のほか、この部屋には魔法薬づくりを疑似体験できるインタラクティブ機材が置かれているので、ぜひお試しを。
続いて、「錬金術(Alchemy)」の部屋へ。
ハリー・ポッター第1作、「ハリー・ポッターと賢者の石」のなかには、永遠の命を与えてくれる「賢者の石」が登場しますが、ここには手前の部屋とまたがって長さ6メートルに及ぶ巻物に描かれたその「レシピ」がガラスケースのなかに横たわっています。
「リプリー・スクロール」と呼ばれるこの16世紀の巻物のなかには、赤い石、白い石、黒い石が一緒になって賢者の石になるプロセスが美しいイラストレーションとともに記されているのです。
物語のなかでは、賢者の石をつくったのは、デヴォン在住でオペラ愛好家、ダンブルドア先生の友人でもある「昨年665歳の誕生日を迎えた」錬金術師ニコラス・フラメル氏、とされていますが、ニコラス・フラメルの墓石もこのセクションに展示されています。
実際のフラメル氏は、パリに住んでいたフランス人で1418年に亡くなっていますが、死後、実は錬金術師で賢者の石を発見したのではないか、とささやかれた人物です。
2017.12.23(土)
文・撮影=安田和代(KRess Europe)