誰もが知る世界の名画を、いちどに体験できる美術館がある。すべて複製ながら、細かなタッチまでオリジナルに忠実で、原寸大。その迫力やオーラまでもが見事に再現されているという。訪れた人みなが驚き、感動するその魅力とは……?
世界25か国、約190の美術館の名画1000点余を陶板で原寸大に再現、展示するのは、徳島県鳴門市にある大塚国際美術館。あの大塚グループが創立75周年の記念事業として設立した、他に類を見ない規模の陶板名画美術館だ。
美術館自体が国立公園の中にあり、山ひとつをくりぬいて建てられたというスケールの大きさ。展示室は5フロアに渡り、鑑賞ルートは全長約4キロ。ひとたび中に入ると、そこには想像を絶する空間が広がっていた。
マドンナ・ブルーの天井が美しい
癒しの空間
足を踏み入れた瞬間、深いブルーの天井に目を奪われるのは「スクロヴェーニ礼拝堂壁画」。本家は北イタリアのパドヴァにあり、西洋絵画の父と呼ばれるジョットの最高傑作として有名だが、その礼拝堂がまるごとここに再現されている。
天井の色は聖母の象徴であるマドンナ・ブルー。散りばめられた星はステラ・マリス(海の星)。壁画だけではなく、床の模様や傷みまで再現された内部では、礼拝堂ならではの荘厳な空気そのものまで体感できる。鑑賞に時間制限のある現地とは異なり、ベンチに座って心ゆくまでこの空間でくつろげるのはなんとも贅沢だ。
巨大フレスコ画の壮大なる世界を
ありのままの迫力で再現
さらに広大な空間が広がるのは、ヴァティカンに本家がある「システィーナ礼拝堂天井画および壁画」。彫刻を本業としていたミケランジェロだが、ローマ教皇の命に従って手がけた天井画には300近い人物が細やかなタッチで描かれている。中央には、神とアダムの指先が触れそうになっている有名なポーズ「アダムの創造」も見られるので注目したい。
正面の壁画「最後の審判」もまた細部まで精緻に再現されていて、あまりの見事さに言葉を発せなくなるほど。この作品にはミケランジェロの自画像がひそんでいるなどユニークなディテールがそこかしこに見られ、時間をかけてゆっくり眺めていると味わい深い。バルコニーから見渡すこのアングルは本家では見ることのできない、ここならではの贅沢な視点。本家は撮影不可だが、ここでは好きなだけ作品と記念撮影をして感動をシェアすることができる。
自然光の中で優しく咲き続ける
幻想的なモネの「大睡蓮」
屋外にも、大きな展示がある。睡蓮をこよなく愛し、数々の作品を遺したモネ。パリ・オランジュリー美術館に収められている晩年の大作「大睡蓮」は8枚の絵画から成るが、そのうち4枚(1室)がここに再現されている。生前、モネ自身が「自然光で見て欲しい」と願ったとおりの環境がここで見事に実現しているのは、2000年経っても退色劣化しない陶板だからこそ。特殊技術により2万色以上の表現・発色が可能な陶板名画には、数々の美術作品の状態を保存し、後世に伝える役割も期待されている。
リアルに咲く睡蓮の花々を見ながら
鮮やかな印象派ソーダでひとやすみ
モネの「大睡蓮」の周りには、色とりどりの睡蓮が咲く池と、モネの庭のイメージが再現されている。睡蓮の見ごろは、6月から9月ごろ。自ら庭づくりに精を出していたモネは、青い睡蓮を咲かせたいと願って手を尽くしたものの、彼の住むフランス北部のジヴェルニーではついに咲くことがなかったという。そんな悲願の青い睡蓮も、ここでは美しく咲く姿を見ることができる。
モネが愛した自然の景色を想像しながら、カフェ・ド・ジヴェルニーでひと息。モネの作品「印象 日の出」をモチーフにしたクリームソーダの鮮やかな色に、思わずテンションが上がる。
2017.06.09(金)
文=嵯峨崎文香
撮影=佐貫直哉