次世代スタークリエイターは
コミュニティから生まれる

山口 僕から見ると、伊藤涼がヒロイズムやRyosuke“Dr.R”Sakaiと始めたLAのクリエイターとのコラボレーションの動きは、日米の国境を超えていくという意味で、ボーダーレスだし、クリエイターが自分達の意思と責任で行動しているという意味で、インディペンデントですね。

伊藤 ですね。ボーダーレスとインディペンデントというのは基本テーマの一つです。日本という井の中で納まらないこと、リアリティのある世界と繋がること。ブランドだってビジネスだってセルフコントロールすること、将来の夢や成功イメージを持つことだって大切。人から教わるのではなく、“世界のクリエイター”というコミュニティで感じてほしいと思っています。次世代のスタークリエイターはマネージメントからではなく、コミュニティから生まれてくると信じています。

山口 素晴らしい考え方ですね。賛成です。音楽制作の現場も、もっとクリエイター主導になるでしょうね。細かいことを言うと、ワンハーフサイズで何百曲と集める大型コンペのやり方は変わりますね。

伊藤 はい。もう既に集まりすぎたストック曲に嫌気がさしているA&Rは多いと思います。ピントの合っていない300曲はもういらないから、ストライクゾーンにバシッと3曲をくださいって感じ。その時、A&Rに必要なのが、信頼できてコミュニケーションのとれるクリエイターなんですよ。だから、いまはA&Rに3人のクリエイターがいれば十分ってところが増えてきました。そして各クリエイターがスマートでインディペンデントであれば、A&Rとの間に入るマネージメントも必要ありません。海外のように必要であればクリエイターがエージェントを雇えばいいんです。マゴダイ(伊藤涼が代表を務めるプロダクション)で始めたLAのクリエイターとのコラボレーションはまさにそんな感じです。

2021年のイメージを見据え
いかに動くかが大事

山口 ほとんどの作家事務所は、既にただの「情弱ビジネス」化してしまっています。コンペ情報と業界の繋がりだけで、他に付加価値を付けられない会社は淘汰されます。ただ残念ながら、日本の変化には、あと4年はかかると思います。すべては2021年に起きます。自信を持って予言します。

伊藤 いまでも変化をしていることは実感できます。あとは4年後のイメージを持ってどう動くか? クリエイターはもちろん、アーティストもその他の音楽業界に働く人たちも、2021年に向けて自分をオーガナイズしていかないとですね。もちろん僕らの次の4年間も(笑)。

山口 デジタル化が一気に進んで、ロボティクス、人工知能、IoT、ビッグデータ活用の時代になっています。音楽業界は、本来時代の先頭を走る存在のはずなんです。しっかりウォッチングして、次に備えましょう。

伊藤 ですね。音楽に“COOL GOOD”を取り戻しましょう。ファッションやアティテュードも大切ですが、ブレインも鍛えないと!

山口 そんな時代意識を持ちながら、Jポップの最新作と向き合うという、僕らにとっても重要な意味のあったこのコラムを長く続けさせてくれた文藝春秋と読者のみなさんに心から感謝します。本当にありがとうございました。

伊藤 寂しい感じもしますが、次へのドアを開くときが来たと思うと楽しみにも思います。またどこかで会いましょう!!

山口哲一 (やまぐち のりかず)
(株)バグ・コーポレーション代表取締役、エンターテック・エバンジェリスト、音楽プロデューサー。「デジタルコンテンツ白書」(経済産業省監修)編集委員。経済産業省「コンテンツ産業長期ビジョン検討委員会」委員。国際基督教大(ICU)高校卒。早稲田大学在学中から音楽のプロデュースに関わり、中退。1989年、バグ・コーポレーションを設立。音楽プロデューサーとしてSION、村上“ポンタ”秀一のマネージメントや、東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデュースする一方、音楽ビジネスとITに関する実践的な研究を行っている。プロデュースのテーマは、新しいテクノロジーの活用、グローバル展開、異業種コラボレーション。2011年頃から著作活動を始め、国内外の音楽ビジネス状況の知見を活かし、音楽(コンテンツ)とITに関する提言を続けている。エンタメ系スタートアップを対象としたアワード「START ME UP AWARDS」をオーガナイズし、プロ作曲家育成「山口ゼミ」や「ニューミドルマン養成講座」を主宰するなど、次世代の育成にも精力的に取り組む、異業種横断型のプロデューサー。近著に『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック)、『10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す。』(ローソンHMV)、『最先端の作曲法 コーライティングの教科書』(リットーミュージック・伊藤涼との共著)、『とびきり愛される女性になる。 恋愛ソングから学ぶ魔法のフレーズ』(ローソンHMV・伊藤涼との共著/「ラブソングラボ」名義)、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(リットーミュージック)、『世界を変える80年代生まれの起業家 起業という選択』(スペースシャワーブックス)、『プロ直伝! 職業作曲家への道』(リットーミュージック)などがある。
Twitter https://twitter.com/yamabug
BLOG http://yamabug.blogspot.jp/
詳細プロフィール http://yamabug.blogspot.jp/2010/05/profile.html

伊藤涼 (いとう りょう)
音楽プロデューサー、ソングライター。「青春アミーゴ」などのミリオンセラーをプロデュース、後にフリーランスに。ソングライターとして、乃木坂46「走れ!Bicycle」、AKB48「ここにいたこと」などの作品がある。作詞アナリスト、フードミュージックプロデューサーとしても活躍。論理的で明晰な分析力に注目。著書に『作詞力 ウケル・イケテル・カシカケル』(リットーミュージック)、山口哲一との共著に『最先端の作曲法 コーライティングの教科書』(リットーミュージック)がある。
マゴノダイマデ・プロダクション http://www.mago-dai.com/
ブログ「伊藤涼の音楽」 http://ameblo.jp/magodai/
伊藤涼が主宰する作詞研究室「リリック・ラボ」 
https://www.facebook.com/lyric.laboratory/

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2017.03.31(金)
文=山口哲一、伊藤涼