東京オリンピックまで
音楽業界は変わらない

伊藤 さて、今回を最後にこのコラムが終わりますが、山口さんの考えるJポップの未来を教えてください。

山口 去年、気づきがあって明確になりました。僕のテーマは2021年です。

伊藤 どういう意味ですか?

山口 日本を俯瞰してみると、東京五輪までは経済も持つだろうから、それは良いことなのでしょうが、本質的な改革は先送りされる。音楽業界だけではないと思いますが、既に有効性を失ってしまっている仕組みも改革されずに温存されてしまう。平たく言うと、レコード会社も1社も潰れないと思います。

伊藤 なるほど。

山口 その反動が来るのが2021年なんです。それから、業界の意思決定にかかわる高齢の方も五輪まで頑張って引退するケースが多いと思われます。そこで「ガラガラガッチャン」な構造変化が起きるのは間違いないです。

伊藤 確かに。なんとか踏ん張っているというか、去ろうにも去れずにいる老兵はいるように思いますね。で、どうなるんですか?

山口 キーワード的に言うと、ボーダーレス、インディペンデント、トランスペアレントですね。

伊藤 説明してください。

山口 「ボーダーレス」は業界やジャンルなど様々な壁が溶けていくということ。国境を超えるという意味でもあります。「インディペンデント」は自己責任と言い換えても良いです。アーティストもクリエイターもプロデューサーもしっかりリスクを取って、自己責任で仕事をしていく時代になります。「トランスペアレント」は可視化ですね。印税の分配にしても様々なルールがすべて透明になる。

JASRACをめぐる騒動の
問題の核心とは何か

伊藤 ボーダーレス、インディペンデントは既に起こり始めているのは感じられるのですが、トランスペアレントに関しては世界の先進国と比べて日本はかなり遅れているように感じますね。何が問題なのでしょうか?

山口 意識の問題ですね。例えばJASRACが音楽教室から著作権使用料を徴収すると言って騒ぎになっているでしょう? いろんな批判があるけれど、的はずれなものも多い。僕は徴収するのが悪いとは思わないんです、音楽教室もビジネスなんですから。法律論で演奏権適用はちょっと無理があるのですが、著作者に分配させるべきという考え方自体は間違っていない。問題だと僕が思うのは、正確な分配ができるメドがないのに新しい分野の著作権使用料を集めようとする姿勢なんですよ。JASRACがすべての音楽教室にセンサーを導入して、全曲のデータを集めて完全に透明な分配を目指しているのなら、断固支持しますよ。でもそんなことしたら分配コストで赤字になるから無理。JASRACの理事会は検討もしてないと思いますが、透明な分配が担保されない状態で、著作権を徴収することがユーザーからも作曲家からも支持されない、許されない時代になったという社会の変化を理解するべきなんですよ。これが透明性です。

伊藤 確かに著作権だけに限らず、その他いろいろな権利が不透明というか、音楽業界にいてもそれらの権利を不透明にすべしという教育しか受けていないんですよね。これって利権を持っている人たちの陰謀にも感じます。お前たちは知らなくて良い!! みたいな。だからレコード会社の現場にいる人たちやアーティストやクリエイター、その周りのスタッフたちはその手のまっとうな教育を受けていない人がほとんどです。たまに山口さんに権利関係の話を教えてもらうことがありますが、なかなか複雑で一筋縄ではいかない印象を受けます。この教育には時間がかかりそうな気もするけど、自分の権利をしっかりと主張するためには大切なことですよね。

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2017.03.31(金)
文=山口哲一、伊藤涼