780メートルの短い道の由来

現在のハーコートロードを真ん中にある歩道橋から左右に見たところ。

 レストランの住所は、ハーコートロード。アドミラルティーから長く続く海沿いの道、グロセスターロード(アドミラルティー側)とコンノートロード(セントラル側)の間、わずか780メートルという短い道です。

 第2次世界大戦前、グロセスターロードとコンノートロードは、イギリス海軍の戦艦停泊埠頭のため分断されていたのですが、あまりにも不便なため、埋め立てして埠頭を建設。2つの道路の間にできた場所に、1961年に新しい道路が開通されました。そしてこの道路名、実は第2次世界大戦終結時、日本軍から香港の主権回復をしたイギリス海軍ハーコート少将の名にちなんで命名されたのです。ずっと続く同じ道なのに、どうして一部だけ名称が違うのか疑問でしたが、後付け道路であればそれも納得です。

1970年代頃(左)と現在(右)のハーコートロード。70年代、歩道橋はすでに同じ位置にあった。

 ハーコート少将は英国海軍学院(Royal Naval College)で学び、1909年卒業。卒業時には数学で隊中1位の成績を収めたほど優秀だったそうです。彼は、香港の主権回復後、軍政府を設立し、代表として多くの業績を残しますが、残念なことに、ハーコートロードの建設が開始された1カ月後、1959年12月19日に逝去。自分の名前がついた道路を見ることはできなかったのです。

 道路命名は、ハーコート少将の功績と、もしかしたら道路開通を見ることができなかった彼への鎮魂の意を込めてのものだったのかもしれませんね。

 長い道路も場所によって部分的に名称が変わることがあります。混乱することもありますが、その背景には、歴史や多くの人の思いが関係していて、紐解いてみるとなかなか興味深いものです。

ジェニー中村 (ジェニー なかむら)
1986年より香港在住のメディアコーディネーター。雑誌やテレビの取材コーディネートや「食」の分野を中心に、幅広く香港を取材、執筆活動などを行っている。“日々変化する香港”にテンポを合わせながらも、ふと振り返る“記憶の中の香港”に白昼夢するのが大好き。
ブログ「香港スタイル」 http://www.cathaypacific.co.jp/hongkong/blog/nakamura

Column

香港ストリート 今昔物語

いつでもどこかが工事中! そんな日々進化(?)し続けるアジア随一の国際都市・香港。香港在住のジェニー中村さんが、この街に縦横に走る数々のストリートの今と昔の姿、そこで生きる人々の目線から、香港人も知らない香港の魅力をじっくりとご紹介します。知れば知るほど香港が好きになる!

2016.03.28(月)
文・撮影(一部)=ジェニー中村