マレー半島とボルネオ島北部にまたがる常夏の国、マレーシア。実はこの国、知る人ぞ知る美食の国なのです。そこでこの連載では、マレーシアの“おいしいごはん”のとりこになった人たちが集う「マレーシアごはんの会」より、おいしいマレーシア情報をお届け。多様な文化が融け合い、食べた人みんなを笑顔にする、とっておきのマレーシアごはんに出会えますよ。

歴史が育んだ料理、バナナリーフカレー

 おいしい料理って、心と体にじんわり沁みてくる“しみじみ”タイプと、心と体にパワーがみなぎってくる“アゲアゲ”タイプの2種があると思うのです。 マレーシア料理にも、この2つの“おいしい”があり、今回紹介するのは、私のテンションを“アゲアゲ”してくれる料理、「バナナリーフカレー」です! 疲れていても凹んでいても、「バナナリーフカレー」を目の前にすると、みるみるうちに笑顔になれるから不思議。

インド系の食堂で提供している「バナナリーフカレー」。天然のバナナの葉っぱをお皿にした料理。

 なぜテンションが上がるかというと、天然のバナナの葉っぱの上に、カレーと、カレーに合うおかずがいくつものっているという、この完璧なる見た目。葉っぱの緑色とご飯の白色の見事なコントラスト。多彩なおかずが可愛らしく盛り付けられた姿。加えて、クミンやカレーリーフなどのスパイスの香りが濃厚に漂っていて、食べる前からもうたまらん。

カレー、惣菜、パリパリせんべいなどがセットになっている、いわゆるカレー定食。惣菜の種類、カレーの味は屋台によって様々。

 バナナリーフカレーは南インドの定番料理です。多民族が暮らすマレーシアは、インド南部、タミール地方からの移住者が多く、彼らの祖先が移住後も大事に守ってきた味が、このバナナリーフカレー。マレーシアにいながら、インドの本格的な食文化が味わえるのは、彼らが力強く時代を生き抜いてきた証。この人々の歴史も、私にパワーをくれる源なのだと思います。

左:目の前でサーブしてくれるので、プチ贅沢な気分が味わえる。
右:バナナの葉っぱは、見た目だけでなく、カレー皿としての機能性にも優れている。

 さて、バナナの葉っぱをお皿にするのには、いくつかの理由があります。表面がつるっと滑らかな葉っぱは、油を弾き、カレーの汁がしみ込むことがありません。デコボコとした葉脈部分は、ご飯粒をすくいやすくしてくれます。また、他人の唾液を“不浄”として避けるヒンズー教徒にとって、洗って何度も使うお皿より、使い捨てのバナナの葉っぱのほうが綺麗(=浄)なのだそう。

 とはいうものの、このバナナリーフカレー。マレーシアに住み始めたころは、注文の方法がわからずドキマギしたものでした。メニューに掲載されていないことが多く、店の兄ちゃんの“目の合図”で料理が次々に運ばれてくるし……。そんなふうに“暗黙の了解”的な注文方法が、マレーシアには多い。だからこそ、その暗黙を理解すれば、マレーシアごはんはさらに何倍も楽しめるのです!

2015.08.22(土)
文=古川 音
撮影=古川 音、三浦菜穂子