マレー半島とボルネオ島北部にまたがる常夏の国、マレーシア。実はこの国、知る人ぞ知る美食の国なのです。そこでこの連載では、マレーシアの“おいしいごはん”のとりこになった人たちが集う「マレーシアごはんの会」より、おいしいマレーシア情報をお届け。多様な文化が融け合い、食べた人みんなを笑顔にする、とっておきのマレーシアごはんに出会えますよ。

スパイスと鶏肉のダブルのうま味! 王道「チキンカレー」

カリーアヤム(=チキンカレー)6.5リンギット(約215円)。クアラルンプールのお洒落なエリア、バンサーにあるカレー専門店「KariGuys」にて。

 常夏の国マレーシア。気温30度近い暑さが一年中ず~っと続いています。暑いなかで食べたい料理といえば、やっぱりカレーですよね! 日本ではインドカレー、タイカレー、欧風カレーが人気ですが、マレーシアカレーもそれらに勝るとも劣らない……いや、偏愛者の私から言わせれば、この3つのカレーの良いところをすべて合わせた究極のカレー。カレーを食べずして、マレーシア料理は語れません! なかでも民族・地域を問わず、マレーシア全土でマレーシア人に愛されている、横綱級のカレーがチキンカレー(現地語で「カリーアヤム」)。今回は、カレーを扱う店なら必ずメニューにあるマレーシアのチキンカレーを紹介しましょう。

「KariGuys」は、マレー半島の中央に位置するパハン州スンパリ地区で、1951年に開業。小さな町で愛された秘伝の味が、首都クアラルンプールっ子を魅了している。

 多民族国家マレーシアは、人口の約7%をインド系のマレーシア人が占めています。そのため、このチキンカレーはインドカレーの作り方によく似ています。たとえば、ホールスパイス(粒のままのスパイス)の香りを油にうつす“テンパリング”の作業。そして、玉ねぎ、にんにく、生姜を油で煮るように炒めたものに、ホールとパウダーの2種類のスパイスを巧みな時間差で加えることで、コクと香りを引きたてます。多種のスパイスを使いますが、それぞれが主張するのではなく、見事な一体感。とろみは少なく、サラッとしたスープ仕立てです。

 ひと口カレー汁をすすれば、濃厚なコクと深いスパイスのうま味が体中を駆けめぐり、さらに、やわらかく煮込まれた鶏肉をフォークで崩してご飯と混ぜて口に運べば、肉の甘みとスパイスの刺激が口の中で溶け合って、もうたまらーん!!

「KariGuys」の4代目オーナー。この店の看板メニューは、先に紹介したカリーアヤム。ジワジワと後からくる辛さで、ごはんがすすむ。

 辛さは比較的マイルド。ココナッツミルクを加えているので、まろやかな甘みもあります。このあたりの味つけは、地理的に近いタイカレーの影響のよう。お店によっては、レモングラスを一緒に煮込んで、さわやかな酸味を加えることもあります。

チキンカレーの鶏肉はかならず骨付き。スープにだしが出るからだ。野菜は加えてもジャガイモ程度で、これは暑いなかで保存できるように。

 インド、タイの影響をうけ、さらに、最初に伝えた玉ねぎをじっくり炒めるのは欧風カレーの手法ですよね! このため、3つのカレーのいいとこどりをした究極のカレー、とお伝えした次第。これをまだ食べたことのない人がいたら、本当にもったいない。あなた、人生損してますよ!

 さて、チキンカレーのお供は、白いご飯だけではありません。お米をココナッツミルクで炊いた「ナシレマッ」(詳しくはこちら)、網状のクレープ「ロティ・ジャラ」やインド系の素朴なパン「チャパティ」と様々。ときに、焼きそば麺にかかっていることだってあります。どんな主食にも合う万能さが、横綱級の知名度を生んだのです。

チキンカレーとナシレマッ。カレーには八角やシナモンといった甘い香りのスパイスが入っているので、ココナッツミルクとの相性は抜群。(写真提供:山崎美奈子さん)
チキンカレーとロティ・ジャラ。ロティ・ジャラとは、ココナッツミルクで溶いた小麦粉を網状に焼き上げ、春巻のようにくるっと巻いたもの。クレープのようなやわらかな食感。

 さて、次は現地マレーシアでおいしいチキンカレーを注文する方法を伝授しましょう!

2015.04.16(木)
文・撮影=古川 音