今月のテーマ「夫婦のあり方」

【MAN】
病との闘いを通じて、強まる絆。素直に泣けてくる、ほんわか夫婦愛。

 自覚症状もないのに、精巣がんと診断された35歳マンガ家アシスタント・一義。肺への転移も見つかり、長期入院が決定。実は真っ先に異変に気づいてくれたのは妻の早苗だ。ある夜の営みが偶然早期発見につながったと話すと、入院患者たちは〈いい奥さんだねえ〉の大合唱。微笑ましいが、その背景にはもう少し重いドラマがある。

 入院患者たちは円満な夫婦ばかりではない。絶滅危惧種のような暴君的な亭主関白もいるし、不倫で家庭を壊して後悔する浮気夫もいる。当の一義も治療の苦しさに負けて献身的な妻に八つ当たり。だが、早苗は〈かず君が言った「来るな来るな」っていうのは「助けて助けて」ってことだと思った〉と一義を抱きしめる。

 互いに相手に負担を掛けまいと少し無理をしてしまう、遠慮とその裏返しの甘えこそが夫婦愛。同じ状況を女性目線で眺めるともっとシビアになりそうだが、男性目線では夫婦はどこまでもロマンティックだ。

『さよならタマちゃん』(全1巻) 武田一義

結婚7年めの夫婦らしい愛情物語に加え、もう一つの読みどころが一義自身の変化。死と隣り合わせの入院患者たちと深い話をし、仕事の師匠や同僚たちに励まされて、生きることに逃げ腰だった男はマンガ家になる意欲を、再び奮い立たせる。リアル闘病記×ハートフルストーリー。
講談社 686円
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2015.08.03(月)
文=三浦天紗子

CREA 2015年8月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

すぐできる、夏休みっぽいこと

CREA 2015年8月号

すぐできる、夏休みっぽいこと

定価780円