江戸町人たちに交じり 
陰と陽の名コンビが活躍

 岡っ引きの助手である下っ引きの佐武(さぶ)と、按摩師の市が、文化文政の世に起きた難事件に挑む一話完結のミステリーだ。人情に厚い正義漢の佐武は捕縛術が得意。見えない目で人の心を見抜くニヒリストの市は居合剣の達人。キャラの立ったふたりの来歴も読みどころ。

 各話とも、ストーリーはオーソドックスな捕物帖だが、悪事を働く身にもそれなりの理屈を持たせ、人間の業や世の不条理にスポットを当てる。最初の「隅田川物語」で扱うのは白魚役の漁師ら3人の斬殺事件。ライバルである網元に疑惑の目が向けられるが、確たる証拠はなく……。川に流れてきた大量のクイの謎、幕府の貨幣改鋳の弊害からまり、意外な犯罪が姿を現す。圧巻のストーリーテリング、浮世絵を思わせるダイナミックな構図、夢幻的な花鳥風月描写の繊細なタッチ。石ノ森ファンの間で「これぞ著者の最高傑作」の声があるのもうなずける。

『佐武と市捕物控 隅田川物語』
(全4巻)

市の師匠でもある剣豪・玄斎の過去が暴かれる「狂い水」、大旦那との縁談をめぐり明暗の分かれた双児の姉妹の運命「蝉しぐれ」など8篇を収録。宝島社の復刻版傑作選は全4巻だが、現在入手しにくい巻も。講談社の電子書籍版『石ノ森章太郎デジタル大全』でシリーズ読破が可能。
石ノ森章太郎 宝島社 590円

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2018.12.02(日)
文=三浦天紗子

CREA 2018年12月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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