信頼し合うのが難しい時代
ゆえに彼の特技には価値がある

 廃墟と思われた山奥のゴミ屋敷で一夜、眠り込んだ小磯和馬は、その家に独居していた老婦人・篠原栄枝にゴミの片付けを依頼される。

 住み込みで日当もある好条件。刑務所帰りで家族との縁も切れていた和馬は引き受けることにし、一風変わった同居生活が始まった。

 実は和馬は元板前。料理もできるし、のちには庭仕事や、栄枝さんのヘアカットなども器用にこなしてしまう。いくつもの隠れた特技の持ち主だが、彼の前科が地域住民にバレてしまい、居場所を失いかける。

 だが、和馬の最大の特技は「人を信じる/信じさせる」能力だろう。

 栄枝さんは不意に迷い込んできた和馬を躊躇なく受け入れ、住民たちも誤解が解ければ打ち解けた。人としての当たり前の優しさや裏表のなさは、栄枝さんのふたりの息子にはないものだ。

 その決定的な差が、彼女が和馬と息子たちに渡した小さなサボテンの鉢を介して見えてくる。その場面は最高に痛快だ。

『葬送行進曲』(全1巻)

栄枝さんにも、ネットで株をやったりする意外な才覚あり。「独居老人」「ゴミ屋敷」「遺産相続トラブル」「出所後の更生と挫折」など、現代社会の抱える問題点を考えさせながら、温かく包み込むラストを用意。庚申待という、古くからの民俗信仰を持ち込むセンスも心憎い。

ウチヤマユージ 講談社 800円

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2019.01.23(水)
文=三浦天紗子

CREA 2019年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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