色鮮やかな民族衣装も大事なアイデンティティ

雪原の中で鮮やかに映えるサーミの民族衣装。今では特別な時に着用するくらいだとか。(C)Visit Finland-Arto Liiti

 ヨーロッパ唯一の先住民、サーミの存在をご存じだろうか?

 ラップランドはサーミの言葉で“サプミ”(“サーミの土地”という意味)。氷河期の終わり、つまり約1万年前にこの地へ移り住み、トナカイを遊牧しながら、“コタ”と呼ばれる三角錐の組み立て式テントで暮らしてきた。過酷な自然の中、神々の声に耳を澄ませながら。

酷寒のラップランドを共に生き抜いてきたサーミとトナカイは特別な関係。(C)Visit Finland

 神話や伝説と密につながるサーミの間では、動物、草花、岩、オーロラ、あらゆるものに神が宿ると信じられていた。大気の神にして至高の神、ウッコは雷で力を誇示し、風の神はトナカイたちを導く。また、シャーマンの役割を担う者はドラムを叩きながら即興歌“ヨイク”を歌い、精神世界とつながったという。

サーミ博物館「シーダ」近くにある、サーミ文化センター「サヨス」にもいくつか展示が。

 今では儀式など特別な時しか身にまとうことはないというけれど、色鮮やかな民族衣装も、サーミのアイデンティティ。地域によってデザインが異なり、着方などで出身地や性別、未婚既婚もわかるとか。

トナカイの毛皮で作った、男性用のヌツッカート。見た目にかわいいだけでなく、機能性も高い。

 そして身に着けるものには、厳しい環境を生き抜くためのアイデアが満載されている。たとえば、トナカイの毛皮のブーツ、ヌツッカート。空気の層を作ることは防寒の基本なのだが、トナカイの毛は内部が空洞になっていて、空気を含みやすく、ブーツの底に藁を入れることでさらに空気をはらむ。見た目がかわいいだけでなく、知恵の結晶でもあるのだ。

2015.05.11(月)
文・撮影=古関千恵子