星のや 京都(前篇)

 温泉を備えた和の宿の魅力を再発見し、楽しむための心得が「旅館道」。「和心地」な温泉旅館をコンセプトとする星野リゾートの「界」と「現代を休む日」をコンセプトにした和のリゾート「星のや」を巡りながら「旅館道」を追求するコラムをお届けします。今回訪れたのは、古くは王朝貴族の別荘地であった京都嵐山にある築100年の宿、伝統の粋とおもてなしで日常から離れた時間が過ごせる「星のや 京都」です。

旅館道 その1
「お迎えの小船に乗り、宿に着く前のひと時を楽しむ」

大堰川を船で上るアプローチはこの宿の魅力の一つ。冬は湯たんぽを膝掛けに置くおもてなしに気分も和む。

 京都嵐山、大堰川にかかる渡月橋のたもとに「星のや 京都」の船待合がある。ここでしばし宿に向かう上り船の用意が整うのを待つ。ここから大堰川を小さな船で嵐山の奥へと上っていくこと10分ほど、川幅が少し狭まって来ると、山肌に立つ美しい日本建築が見えて来る。そこが「星のや 京都」だ。

王朝貴族になった心持ちで四季折々の美しい眺めを楽しめる。

 船待合での丁寧なお出迎えと、静かな清流を進んで行く船上の時間のお陰で、日常から非日常の時間へ、とても心地よく気持ちを切り替えていける。

緑の清流、大堰川を眼前に桜の木に囲まれて見える「星のや 京都」。苔むした小道を上って宿の中へ。
「星のや 京都」の灯りは、都市環境照明研究所の武石正宣氏によるディレクションと京都の老舗「三浦照明」の技で新しさと伝統が融合した美しさを見せる。

 船着き場から見上げたときの、建物の佇まいがよい。ここは江戸時代の豪商にして大堰川を切り開いた角倉了以が居を構えたところに100年前に建てられた旅館を、今に生かした建物だ。眺めが美しくないわけがない。大堰川を目の前に望む場所には、空中茶室が設けられていて、春には満開の桜が目の前に広がるという。

 全25室の宿は、建物と建物を繋ぐ小道、ゲストが思い思いに寛げるライブラリーや和室パブリック、奥の庭と、施設全体が一つにまとまり、まるで宿というより豪勢な私邸に招かれたような感じがする。軒先の灯り一つにも伝統を汲んだモダンな美しい意匠が見て取れる。チェックインは客室で、プライベートに行われる。

縦格子の戸を開けて、客室に入ってのチェックイン。まさに行き届いた邸宅からのお招きに預かった感じがする。

2015.02.28(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=鈴木七絵