星野リゾート 界 津軽(前篇)

 温泉を備えた和の宿の魅力を再発見し、楽しむための心得を紹介していく「旅館道」。「和心地」な温泉旅館をコンセプトとする星野リゾートの「界」と「現代を休む日」をコンセプトにした和のリゾート「星のや」を巡りながら「旅館道」を追求するシリーズの3軒目は、津軽三味線はじめ津軽文化を色濃く感じる宿「星野リゾート 界 津軽」です。

旅館道 その1
「旅館は、日本の地方文化を味わう絶好の機会をくれる」

日本画の巨匠、加山又造の壁画「春秋波濤」。津軽海峡の大波を挟んで、弘前の桜と八甲田山の紅葉を大胆な構図で描いた作品。

 日本の温泉旅館への旅は、温泉地を中心にその土地が持つ魅力に浸れる機会でもある。「界 津軽」があるのは青森県大鰐温泉。飛行機で行くなら青森空港からレンタカーで約50分、列車で行くなら東北新幹線の新青森駅でJR奥羽本線に乗り換えて大鰐温泉駅まで行き、そこからタクシーで約5分と、南津軽の奥座敷といった趣がある。そして、モダンな佇まいのなかに津軽文化を色濃く感じる宿でもある。

津軽三味線の音は、叩きバチ、すくいバチ、返しバチ、ころがしなど様々な奏法で変化する。

 津軽三味線の力強い響きは、津軽文化の象徴。「界 津軽」では毎晩、ロビーの大壁画の前で、全国津軽三味線大会グランプリに輝く渋谷幸平氏が、弟子である界スタッフとともに合奏を披露している。

 バチの叩きつけるような音や、張りつめたような爪弾きが続く高音など、思わず引き込まれてしまう。毎週一回の先生の直稽古を含めて、練習を重ねたスタッフの演奏もなかなかのもの。ロビーに響きわたる「津軽じょんがら節」にゲストが聴き入っていた。演奏後には「秋あがり」や「ひやおろし」などの地酒を、津軽塗や津軽びいどろ、金山焼の酒器に入れて楽しみながら、三味線の音や弾き方などについての談議を聞くこともできる(地酒飲み比べセットは1,500円/税・サ込み、2014年は11月30日まで)。

総勢16名の界スタッフが津軽三味線を練習中。毎週2時間は直稽古もあって、集中して練習する。
青森の銘酒をいただきながら、津軽三味線の音の出し方や、有名な曲の調べなどについて、三味線談議が交わされる。

「黒石よされ」など津軽三味線の名曲でも知られる青森県黒石市出身の渋谷幸平氏は、幼稚園の時から祖父母に連れられて民謡を聞き、9歳から津軽三味線の魅力に強くひかれて練習を始めたという。自らの演奏会をはじめ、「界 津軽」での指導やグループでの大会出場、小中学校でも津軽三味線を教えるなど、その普及に尽力している。毎晩のロビー演奏会は、そんな演奏家の音を生で聴き、話もいろいろ出来る貴重な機会だ。

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2014.09.13(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=山元茂樹