「静止」と「運動」が循環しているということを浮かび上がらせた

 写真家・写真評論家の港千尋は『風景論 変貌する地球と日本の記憶』(中央公論新社)の序章でこう記す。

「震災直後の被災地で多くの人が感じたのは、流れていた時間の切断であった」「震災後の風景とは、その切断面に現れた何かである。それを総合的に理解するのは容易なことではないが、風景を空間的な概念としてとらえていただけでは見えてこないことは、明らかだろう。この場合の切断面とは、何よりもまず時間的な切断面のことだからである」

 港がいう時間的切断面とは、震災により、ひとつの風景の中にスケールの違う多数の時間(地質学的な時間から始まり人類史の時間、東北の歴史、自治体の歴史等)が流れていることがあらわになるという意味合いである。

 この切断面という言葉を借りるのであれば、『すずめの戸締まり』は、震災による時間の切断を通じて、その切断面から、個人(心の時間)・社会(都市の繁栄と衰退)・大地(地殻の変動)といったスケールの異なるそれぞれのレイヤーで「静止」と「運動」が循環しているということを浮かび上がらせた作品である、ということができる。

【参考文献】
『すずめの戸締まり 美術画集』(KADOKAWA)
『すずめの戸締まり 新海誠絵コンテ集7』(KADOKAWA)
『風景論 変貌する地球と日本の記憶』(中央公論新社/港千尋)

2024.04.22(月)
文=藤津亮太