おいしい、これ、何ていう漬物だろう、と細かく刻んだ緑色の野菜の漬物をぽりぽりと齧っていた咲桜莉が「あ、忘れてた」と急に声のトーンを上げた。

「お母さんから、お土産に千枚漬を買ってきて、って言われてたんだ――。どこのお漬物屋で買うのがいいのかな? だいたい、不思議だよね。京野菜って言うけど、別に京都だけで育つ野菜じゃないでしょ? それなのに、『京』と頭につけるだけで高級感出るから、これぞ京都マジック」

 すると、いつもはうるさいくらいにおしゃべりなのに、席についてからまったく言葉を発していなかった心弓(ここみ)センパイが、急にスイッチが入ったかのように「私もだ」と顔を向けてきた。

「おじいちゃんに甘栗、頼まれてるの。商店街のアーケードを出たところに、おいしい甘栗屋があるらしいんだけど、どっちの出口だろ? アーケードだって、二本あるみたいだし。新京極と寺町だっけ?」

 そこから話題が伝播して、お隣のテーブルを巻きこんでの、各自が託されたお土産リストを紹介し合うコーナーが始まり、固い雰囲気が一変、思わずリラックスした空気が流れた。

「サカトゥーは何か、頼まれたの?」

 柚那キャプテンからの質問に、

「お香です。有名なお香屋さんがあるみたいで――。でも、たどり着けるかどうか心配です」

 と私が答えた途端、「ああ」という声にならぬ声が一同から発せられるのを聞いた気がした。

「咲桜莉、いっしょについていってあげな」

 柚那キャプテンの声に、「了解であります」と咲桜莉がうなずき、「面目ねえっす」と私は半笑いで頭を下げた。

 咲桜莉と並んでエレベーターの到着を待っていたら、柚那キャプテンの咲桜莉を呼ぶ声が食堂から聞こえてきた。

「何だろう、行ってくる」

 別れ際、咲桜莉から鍵についた木札を見せられ、

「ウチらの部屋が『秋桜(こすもす)』だから、先生の『さざんか』も漢字かも。確か、どっかに『茶』が入っていた気がする」

2024.01.30(火)