米アカデミー賞の“前哨戦”とも呼ばれる、第81回ゴールデングローブ賞(アニメーション映画部門)を宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』が受賞しました。同作の作画の“最高責任者”である作画監督を務めたのが、本田雄氏。本田氏は庵野秀明監督による「エヴァンゲリオン」シリーズを担当してきたアニメーターであり、『君たちはどう生きるか』の制作にあたってカラーからスタジオジブリへと引き抜かれています。

6年にもわたる制作期間のなか、同氏が机を並べながら見た宮﨑駿監督の“異様なこだわり”とは?

すべての絵を自分一人で描くつもりで

 本田 思えば「動く絵」の面白さに気付いた最初のきっかけが『未来少年コナン』だったんです。小学校5年生のとき、テレビでたまたま見ました。『アルプスの少女ハイジ』のようなキャラクターなのに、おもしろい動きをさせていて、しかも最終戦争後の世界を描いた不思議なSFだった。足の指で物をつまんだりするコナンの動きが面白くてね。

 今思えば、初めて見た宮﨑作品です。『ルパン三世 カリオストロの城』も大好きでした。やっぱりルパンのコミカルなアクションにハマった。それまでのアニメ表現とはまったく違いました。当時はノートに漫画を模写したりしていた“漫画少年”でしたが、そこから一気に“アニメっ子”になりました。

 ジブリ作品への思い入れはやはり強いです。小学生時代から宮﨑アニメに触れてきたわけですからね。これまでもアニメーターとして『崖の上のポニョ』や『毛虫のボロ』などに参加させてもらいましたが、『君たちはどう生きるか』は宮﨑監督の10年ぶりの長編映画。その作画監督を任されたわけですから、気合いは入っていました。すべての絵を自分一人で描くつもりでやりました。

 宮﨑駿監督(82)の最新作『君たちはどう生きるか』が、72億円の興行収入を達成する大ヒットとなっている。「全編手描き」の絵が素晴らしく、謎が多い物語にもかかわらず、その迫力満点の表現で観客を冒険世界へぐいぐいと引き込む、アニメ本来の魅力を実感させられる大作だ。

 本誌前月号では、同作の作画監督を務めた本田雄氏(55)への3時間に渡るインタビューの前編を掲載。2017年の始動から作品が完成するまで、6年にわたる巨匠・宮﨑駿との“真剣勝負”の日々を振り返った。

 本田氏は同業者からは「師匠」と呼ばれる名うてのアニメーターだ。宮﨑監督だけでなく、庵野秀明監督、今敏監督、押井守監督といった日本アニメーション界を代表する作家のもとで仕事を続けてきた。『君たち』の作画監督を引き受ける直前は、20年近く関わった庵野監督の「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの最新作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の作画監督を務めることが内定していた。だが、本田氏は『君たち』に参加するため、所属していた制作会社カラーからスタジオジブリへの移籍を決意した。

 大仕事を終えた本田氏の脳裏にいま去来するものは何か。2人の天才監督から確かな腕を評価された“アニメ職人”の本音を聞いた。

2024.01.27(土)
出典元=月刊「文藝春秋」2023年10月号