ホワイトベースに乗った少年兵たちにとっては初めての宇宙空間での戦闘です。ピリピリとした緊張感の中でモビルスーツが次々と出撃する。ホワイトベースの艦砲射撃が始まると、相手方のムサイ艦隊にも緊張が走る。

 相手も主力機であるガンダムを叩こうと待ち構えるわけですが、まるでガンダムの姿が見えないのです。

「ガンダムがいないそうです」

「そんなはずはない。ガンダムはいるはずだ。どこなんだ?」

「ドレン大尉、ゼロ方向から接近するものあります」

「なんだ!?」

「モ、モビルスーツらしきもの!」

 次の瞬間、すぐ隣のムサイ艦が真上からのビーム砲攻撃を受けて撃沈します。しかし、まだガンダムの姿は見えません。

「ガ、ガンダムだ。あの白いヤツだ……お?」

 恐れ戦く敵艦司令が、ハッと上を見上げます。すると、BGMや爆発音がスッと消え、静寂の中、真っ暗な宇宙空間から1点の白い光が現れる。ここで初めて、ガンダムが描かれるわけです。真打登場です。そして、たった1機ですべての敵艦を次々に撃滅する。

 何度見てもすごいシーンです。観客に何を見せて、何を見せないかが考え抜かれている。アングルの切り替えやBGMなどの演出も見事としか言いようが無い。映画が公開された頃、私は中学生でしたが、「かっこいい! 本当にすごい」と心を鷲掴みにされました。

 安彦良和さんの絵も神懸かっている。これは業界の噂ですが、監督の富野さんが指定していないシーンも、劇場版にするにあたって安彦さんが勝手に描き直していたそうです。だから、随分とテレビシリーズと違うんです。テレビ版もすごいけれど、映画版はもっとすごいと思いました。

 

ドバドバ流れる眞人の血

 ――その頃には、アニメーターになろうと決めていたのですか?

 本田 決めたのは高校に上がる頃ですね。その頃には、すでに宮﨑駿という存在を意識しながら、『あしたのジョー2』などの出﨑統さんが監督で杉野昭夫さんが作画担当の作品とか、『SF新世紀レンズマン』や『超時空要塞マクロス』、『幻魔大戦』、マッドハウス制作の作品も夢中で観ました。

2024.01.27(土)
出典元=月刊「文藝春秋」2023年10月号