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黒ずくめの組織に頼らずとも数字を積み上げられることを証明した作品

 そして第21作『から紅の恋歌』は68億円(68.9億のためほぼ69億)とさらなるヒットをたたき出し、黒ずくめの組織に頼らずとも数字を積み上げられることを証明した。本作は服部平次と遠山和葉が第7作『迷宮の十字路』に続いて再びがっつり登場、と新鮮味は薄いように感じるが、実はそうではない。

 これまでのこのペアの登場時は平次がメインになるのが常だったが、『から紅の恋歌』では平次以上に和葉が重点的に描かれるのだ。また、和葉の恋のライバルとして新キャラクターの大岡紅葉が登場するが、原作と連動して「原作でチラ見せ→劇場版で本格登場」という仕掛けも施されている。

 本作で顕著になったのが、『黒鉄の魚影』にも連なる「セルフオマージュ」的要素。『から紅の恋歌』に登場する「平次が落ちる和葉の手をつかむ」シーンは、ふたりの人気エピソード「そして人魚はいなくなった」編を彷彿とさせる。また、劇中の「その手ェ離したら殺すで」のセリフも「そして人魚はいなくなった」編の「動いたら…殺すぞ…」と重なる。

 さらに、ふたりが爆風に合わせて跳ぶシーンは『天国へのカウントダウン』と重なるなど、コアファンが観ればニヤリとさせられる仕掛けが多数。また『から紅の恋歌』の主題歌は倉木麻衣なのだが、これは平次&和葉といえば……な『迷宮の十字路』の主題歌が倉木だったから。「ビーイングのミュージシャンが担当するのが通例」といった以前の流れとは起用理由が大きく異なる。

 これは劇場版コナンシリーズに限らずだが、「アニメ公式が原作のガチファン」はファンにとってポイントが高く、愛される秘訣となる。劇場版コナンシリーズは第1作『時計じかけの摩天楼』から原作者・青山剛昌がキモとなるシーンを描き下ろしたり、第2作で毛利小五郎と妃英理の過去が明かされたりと原作との連携が密だったが、近作ではこの傾向がより強まった印象だ。

 『から紅の恋歌』はもちろんのこと、第22作『ゼロの執行人』が興収91億円を突破する爆発的なヒットをたたき出した理由の一つに、「安室の女」と呼ばれるファンたち(※劇中の名ゼリフ「僕の恋人はこの国さ」にもちなんでいる)が「安室さんを100億の男にしよう」と“推し活”を行ったことがあるが、これも元々のファンの満足度が高いがゆえだろう。ただ徒に人気キャラを出して済ますのではなく、ファンが歓喜するようなサービスを満タンにする精神――こうした精神は、第23作『紺青の拳』以降にも濃く受け継がれている。

2023.07.05(水)
文=SYO