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飛躍のきっかけとなったコラボレーション

 その流れを変えたのが、先に述べた「30億円クラス」を決定づけた『漆黒の追跡者』。本作はコナンの宿敵である黒ずくめの組織ががっつり絡んでくる物語になっており、これまで以上に原作とのリンクが強い。

 予告編を観るだけでも、メインキャラクターが次々とピンチに陥ることや、東都タワー(作中に登場する東京タワー的な塔)を黒ずくめの組織のジンが乗ったヘリが狙撃するというかつてない規模のアクションも描かれていることがわかり、「原作勢」の鑑賞欲を掻き立てる内容になっていた。その結果、前年の『戦慄の楽譜』の興収24億円に対し35億円と大きくジャンプアップ。

 ただ、続く第14作『天空の難破船』(10)は32億円、第15作『沈黙の15分』(11)は31億円とわずかながら興収が下がってしまった。確かに、辛口な意見をいえば『天空の難破船』はまたもやキッドが登場して新鮮味が薄く、『沈黙の15分』は冒頭にド派手なスペクタクルを入れたりタイトルが後半の重要シーンにかかっていたりコナンが雪崩に遭遇して死にかけたりといった工夫は感じられるものの、『漆黒の追跡者』と比較してしまうとキャラ立ち含めて少々弱い。

 これはいちファンの意見だが――3年連続で興収30億円をキープしてはいたものの、このままではずるずると下降してしまうのではないか? という気配が漂っていたように思う。

 しかし、第16作『11人目のストライカー』(12)でコナンシリーズは新たな試みを打ち出した。それは「コラボ」。それまでにもゲスト声優等の起用は行っていたのだが、本作ではJリーグとコラボレーションし、実在の選手が登場したり各チームとプロモーションを行ったりと、素人目にもわかるほどに明確に舵を切った。

 興収は32.9億円とほぼ33億円まで回復し、続く第17作『絶海の探偵』では、防衛省と海上自衛隊の全面協力のもとで製作が行われた。興収は36億円と『漆黒の追跡者』以上の数字を記録。こうしたコラボレーションはシリーズファン以外から新規層を引っ張ってくる効果が見込めるが、これらの作品もサッカーファンやミリタリーファンを呼び込むことに成功した形だ。なお、『絶海の探偵』では「相棒」シリーズの脚本家・櫻井武晴を起用。このコラボレーションも功を奏した(櫻井は『黒鉄の魚影』でも脚本を担当)。

2023.07.05(水)
文=SYO