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ワールドワイドな要素を盛り込んだヒット作は……?

 また、主題歌にも注目したい。これまで劇場版コナンシリーズの主題歌はB’zやZARD、倉木麻衣といった「ビーイング」系のミュージシャンとのコラボが通例だったが、『11人目のストライカー』でいきものがかり、『絶海の探偵』で斉藤和義を起用

 ストーリー以外の面でも、改革を推し進めていったのだ。そうした積み重ねのうえに「赤井秀一」という強力なキャラクターが関わった『異次元の狙撃手』が、興収41億円の結果をたたき出したという流れがある(ちなみに本作の主題歌は柴咲コウ)。

 『異次元の狙撃手』にはその他にもヒットの要素が多くあり、公開当時は謎めいた存在だった沖矢昴の正体が赤井であるという示唆をいち早く行う「原作とのリンク」、赤井が所属するFBIはもちろんのこと、容疑者がネイビーシールズ(アメリカ海軍の特殊部隊)の隊員であるという「ワールドワイドな要素」が入ってきたことなどが挙げられる。

 アクションのスケール感も強化され、まさに“異次元”の距離からの沖矢/赤井の狙撃をコナンがアシストし、蘭が犯人をぶっ飛ばすという連携も見られる。容疑者の一人をゲスト声優の福士蒼汰が演じている点も重要だ。

 続く第19作『業火の向日葵』(15)はまたまたキッドが登場するのだが、だれもが知るゴッホの世界的名画「ひまわり」に題材をとったり、主題歌をポルノグラフィティ、ゲスト声優を榮倉奈々が務めたりと様々な仕掛けを行っている。予告編にも「怪盗キッドの様子がいつもと違う」「コナンの『キッド、お前は一体どうしちまったんだ!』という意味深なセリフが流れる」「工藤新一が帰ってくる」といったファン心理を刺激する要素を多々盛り込み、興収44億円と成功を収めた。

 新たな風が吹き始めたなか、第20作『純黒の悪夢』(16)ではヒット要素である「黒ずくめの組織」を再び本格登場させ、「日本警察から機密情報が奪われ、世界各国で黒ずくめの組織に潜入していた捜査官が暗殺される」「赤井秀一と安室透の対決」「オスプレイに乗り込んだ黒ずくめの組織との銃撃戦」「遊園地がつぶれかける際のパニックの描写」といった要素を大量に投入。

 さらに原作で話題を集めていた黒ずくめの組織のNo.2であるラムの腹心、キュラソーというオリジナルキャラクターを登場させ、天海祐希がボイスキャストを務めた。このキュラソーの人物設定も新しく、「記憶を失った組織の重要メンバー」であり、劇中でのドラマティックな活躍が話題を集めた(ちなみに本作は『黒鉄の魚影』ともリンクしている)。本作は興収63億円超えの大ヒットを記録し、劇場版コナンシリーズを新たなフェーズへと押し上げた。

2023.07.05(水)
文=SYO