パンやお菓子を作るのが好きな女性が始めたお店が各地にできていて、このコラムでもご紹介してきました。

 自分がおいしいと思うパンやお菓子を心を込めて作り、自ら言葉を添えて販売する。

 たいへんですが、やりがいのあるお仕事。その方らしさが感じられるパンやお菓子は、わざわざ買いに行く価値があります。

 前にこのコラムでご紹介した宝塚の「アン ベルジェ モンクゥ」さん。取材時に出していただいた「シュリンプサンドイッチ」のパンがとてもおいしかったので、どこのパンなのかお聞きすると、すぐ近くのお店で女性が焼いておられるとのこと。

 さっそくそのお店「lichette(リシェット)」を訪ねました。

 閑静な住宅街の一角。門が開いていて「パンやけました」の看板が出ていたら、お店はオープンしています。

 知り会いのおうちにおじゃまするような気分で、庭から靴を脱いでお店に上がるスタイル。大きな一枚板の上に10種類余りのパンやお菓子が並んでいます。

 笑顔で迎えてくれるのは、荻野志保さん。店名は、フランス語で「小さなパンのかけら」という意味。

 荻野さんは看護師の仕事の合間に好きなパンやお菓子の教室にずっと通っていました。

 15年前、「身体にいいものづくりがしたい」と退職。オーガニックレストランなどで働きながら、素材について学んだり、農家さんから話を聞いたり。

 2008年に起業し、不便な立地の工房兼店舗で販売するだけでなく、手作り市に出店するなどして経験を積みます。

 2017年夏に同じ宝塚市内から移転。念願の庭のあるお店になりました。

 荻野さんが作るのは、全て国産小麦を使用したパンやお菓子。

 なかでも全粒粉は、1年前から、金沢の農家から「ゆきちから」の玄麦を送ってもらい、小さな製粉器で自分で挽いて使っているのだそう。

 「仲間と近隣で栽培した小麦を使ったりもしているんですよ」とにっこり。

 また、動物性のものを控えて米粉や豆乳を使ったり、塩麹や甘酒でスコーンを作ったり。細やかな心遣いで、身体に優しいものづくりを実践しています。

 野菜や果物は宝塚・山本の「めぐる八百屋 オガクロ」さんが扱っているものを使用。

 週1回の移動販売でお店に届く野菜をフォカッチャやカンパーニュなどに使うだけでなく、果物で自家製酵母を醸しています。

「庭に実ったリンゴやブドウ、ハーブも使います。酵母によって、風味や香り、生地の膨らみ方が変わる。蜂蜜を使い切ったら、その瓶に果物と水を入れてシャカシャカして作るんですよ」

 窓辺には、酵母のガラス瓶がいくつも並んでいました。

 「できれば小麦、野菜、果物などの材料も全部自分で作りたい。でもそれはとってもたいへんなこと。今の私は、農家が作ってくれたものを使わせてもらっているので、それらの素材を最大限に活かしたい」

 生地は全て手ごね。お店のオープンは週3日ですが、その他の日にも仕込みをしており、真夜中から作業をする時も多いのだとか

 素材の良さ、小麦のおいしさをわかってもらえたらと荻野さんは言います。

2019.02.24(日)
文・撮影=そおだよおこ