土器や土偶を介すると
縄文人と気持ちが通じ合う

「暮らしを、もっと美しく」

 というようなキャッチフレーズに惹かれる向きなら、ぜひおすすめしたいのがこちら。東京国立博物館での『縄文−1万年の美の鼓動』。

 縄文時代の人たちが生んだ造形物を、日本中からかき集めて一堂に並べた展覧会だ。現在の私たちが見ても力強くて美しく、オリジナリティとデザイン性に溢れた器や土偶の数々。それらはいずれも、はるか昔に生きた先達が、日々の暮らしの中でつくり上げた「用の美」だ。縄文人の生活に根ざしているからこそ、時を超えた美しさを放つ。生活の中に美しさを探したい人には、きっと響くものが見つかるはず。

 日本の歴史を習う際にはいつも起点となる縄文時代、改めていつごろのことを指すのかといえば、1万3千年前から2千~3千年前あたりまで。旧石器時代と弥生時代に挟まれた、およそ1万年ほどの長い長い期間である。

 氷期が終わりを告げ、日本列島が今と似た環境になったのも、縄文時代の始まりと同じ時期だ。豊かな山川草木に囲まれて、縄文の人たちは狩猟や漁、植物採集に勤しんだ。

 彼らの日課にはきっと、土器や装身具、土偶などをつくる時間もしっかり組み込まれていた。彼女たちは思うまま自在に手を動かし、さまざまなかたちをつくった。ここで彼女たちと呼ぶのは、装身具はもとより土器・土偶など縄文創作物の繊細かつ大胆なデザインセンスからして、制作の中心を担っていたのは女性だったように思えてならないゆえだ。

 今展では、他の時代・地域に類似のものすら見当たらない独創の縄文作品の粋が丸ごと見られる。縄文時代の遺物で国宝指定を受けているのは全6件だが、それらすべてが展示されるというからすごい。

 燃え盛る火そのもののような形態の《火焰型土器》や、眺めているだけで豊穣な実りへの祈りが伝わってきそうな《土偶 縄文のビーナス》、奇天烈な仮面姿をかたどってたっぷりの遊び心を感じさせる《土偶 仮面の女神》などなど。どこまでも自由な発想と造形に、度肝を抜かれてしまう。

 意表を突かれるのは、当然といえば当然。縄文時代を生きた人たちと私たちでは、日々の生活や思想、世界観が丸ごと違うのだろうから。それでも「生まれて暮らし、死んでいく」、そんな大きな生命のリズムは不変のはず。縄文の人が何を見て、どんなことを思い土器や土偶をつくっていたか、語り合えたらどれほど楽しいか。せめてモノを通して彼ら彼女たちの気持ちに触れてみたい。

特別展『縄文─1万年の美の鼓動』

会場 東京国立博物館・平成館(東京・上野)
会期 開催中~2018年9月2日(日)
料金 一般 1,600円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://jomon-kodo.jp/

2018.08.13(月)
文=山内宏泰

CREA 2018年8・9月合併号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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