小瀬村真美が生み出すイメージは
静謐なまま躍動する

 いったいどうしてそこまでするの? そう問いたくなるほど、小瀬村真美の創作はいつだって驚くほど手が込んでいる。

 たとえば彼女の初期作品《Sweet Scent》は、17世紀の画家スルバランの静物画《オレンジ、レモン、水の入ったコップのある静物》を手本として、まずは絵とそっくりのオブジェをセットとして組み上げる。

 次いでそれを写真撮影するのだけれど、記念に一枚撮って終わりじゃない。数時間ごとに何日もシャッターを切り続けるといった長大な作業を、自分に強いる。

 さらには、そうして撮られた膨大な写真を加工変形しつつ繫ぎ合わせ、一本の動画にして、ようやく作品として完成する。

 近作の《Objects-New York》は、ニューヨークの路上で収集したゴミやガラクタを用いて、古い静物画のようなオブジェをつくり上げる。それで終わりじゃなく、写真に撮ることでやっと作品になるのだった。

 こうした複雑な過程を経て生まれてくるのは、どこまでも静謐でありながら、内部から何かが蠢き出てくるかのごとき動的なイメージ。なんとも不思議な印象を受けるのは、これが絵画、彫刻、写真、映像のあわいを自在に漂う特異な作品になっているからだろう。

 ただ考えてみれば、それら作品ジャンルの根っこはほぼ同じ。小瀬村がすべてを統合しようとするのは、理に適ったことにも思える。

 歴史的には、まず絵画と彫刻があった。洞窟で暮らしていた太古の時代から、人はあちらこちらに絵を描いていたし、ものを削ったりこねたりして像を成してきた。そこにいない動物や、遠く離れてしまった大切な人の姿を留めて大いに喜んだ。

 表現の腕前はだんだん上がり、イタリアでルネサンスが興る頃には、平面の画面にあたかも奥行きがあるような、また事物に厚みがあるような描き方が発明される。レオナルド・ダ・ヴィンチらが苦心し完成させた、遠近法や陰影法だ。

 19世紀になると写真術が生まれ、本物そっくりの像が容易に得られることとなった。けれどそれは、絵画が写実を追求してきた流れの一つ。絵筆がカメラという機械に置き換わっただけのこと。あとを追うように映像技術も開発されたが、これは写真を無数に繫げることで絵を動かすしくみだった。

 つまりは絵画も彫刻も、写真も映像もすべては繫がっている。それらの要素を丸ごと呑み込み、ただひたすら「表現」として存在するのが小瀬村の作品。東京・原美術館の個展で、じっくり向き合ってみたい。

『小瀬村真美:幻画~像の表皮』

会場 原美術館(東京・品川)
会期 2018年6月16日(土)~9月2日(日)
料金 一般 1,100円(税込)ほか
電話番号 03-3445-0651
http://www.haramuseum.or.jp/

2018.06.30(土)
文=山内宏泰

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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