世界有数の源泉地数を誇る日本。温泉は私たちにとって、世界に誇るべき日本文化のひとつともいえるでしょう。効能高い泉質や、それを取り入れた文化、また情緒あふれる温泉街も観光地として世界から注目を浴びています。そこで気になるのが、海外の温泉事情。日本と同じく火山帯を有し、豊かな湯が湧くイタリアから、温泉事情とその楽しみ方についてご紹介します。
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日本と同じように火山帯を有するイタリアには、全土に温泉が湧く地がいくつもあります。温泉に関する歴史は古く、紀元前までその記述をさかのぼることができます。
イタリアの温泉は、日本のように高温で湧くものは少なく、また温暖な地中海性気候もあって、寒い時期に入って体を温めるというよりは、温泉そのものの効能に注目し、疲れや病気を癒す湯治場として使われてきました。
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トスカーナにある有名な「モンテカティーニ・テルメ」のように、王侯貴族の湯治場として発展し、今は、昔ながらの温泉療養施設に加え、温泉プールや美容トリートメントなどを取り入れた近代的なスパ施設を完備した温泉地もあります。
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一方、こちらはイタリアの温泉の歴史を色濃く残す「バーニョ・ヴィニョーニ」。古代ローマ時代から史実にあらわれ、教皇ピオ2世や、メディチ家当主のロレンツォ・ディ・メディチなども湯治に訪れた、由緒正しい温泉です。
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この温泉は、大きな都市からは遠く離れた、どこまでも美しい大地が広がるオルチャ渓谷にあります。
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中世、フランスからローマへ向かう重要な道のひとつであったフランチジェーナ街道に近かったこともあり、長旅の疲れを癒す温泉の宿場として活気づきました。
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当時の有力者も訪れるほど人気を博した温泉街の面影を残すように、町の中央には温泉水を溜めた大きな浴槽があります。
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右:花と緑にあふれる穏やかな雰囲気の町並み。
浴槽というにはちょっと驚く大きさなのですが、この浴槽の水面に石造りの趣ある町並みや自然の緑を映し、今もなお、独特の美しい景観を作り出しています。
文・撮影=藤原亮子