函館の次は、またバンコクへ?

ガガン氏は、もともとミュージシャン志望だったから、料理界のロックスターシェフになりたいのだという。だから、多少クレイジーなことにも挑戦してしまうのだとか。

 さて、学会発表で多忙なガガン氏だけれど、バンコクでいただいたご自身のアドレスを使って直接やりとりすること数回。当日の朝になって、やっとインタビューの時間が決まった。当初はランチを一緒に、などと話していたものの、やはり発表の後にということに。

 ガガン氏の発表は、2日目午後の最初。早めに会場に行って、最前列の目の前に陣取った私に、「数分後には君の質問のほとんどの答えを知ることになると思うよ」と小さな声で。座りきれずに立ち見の参加者が続出する中、ガガン氏の発表がはじまった。タイトルは「ガガン・キュイジーヌにおける日本の影響」。

日本と出会ってから料理に関する考えが変わったという。

 昼休み直後だったので、「皆さん、コーヒーをたくさん飲みました? 私の話を聞いていて眠くなるといけないからね(笑)」とユーモアを交えて話し始めた。

 インド人のガガン氏が2007年にタイに行き、2010年にレストランをオープンさせて2時間制の2回転としたこと。2012年からは3種類のセットメニューだけにして効率化したこと、3年かけて資金回収できてからは楽しめるようになったことなど、料理人に向けての発表ならではの具体的な内容が詰まっていた。

八女の玉露を飲んだときに日本茶と恋に落ちたという。そこから生まれたのは、キュウリとスイカのジュースにお茶をブレンドしたカクテル。

 日本へは1995年に来たことがあったものの、2013年に再訪し、料理とは何かを考え直すきっかけとなった。以後、休みの度に日本を訪れるように。そして、日本の影響を受けた数々の料理を考案してきたという。写真とともに説明されたものは、日本人が思いつかないようなユニークなものばかり。私がバンコクでいただいた料理もいくつか紹介された。

バンコクで私がいただいたメニューも。トマトで茶の湯を表現するためのびっくりな調理工程も紹介された。
「私はスーパークレイジーだ」というコメントとともに紹介された、ライスクラッカーの生ウニとイチゴ載せ、マンゴーにはバニラと生ウニソース。日本人にとってもビックリする組み合わせだけれど、後者はバンコクでおいしくいただいたので、私には味の想像がついて安心感があった。

 現在は、定期的に福岡のシェフとのコラボを続けていて、2020年にはバンコクのお店を閉めて、福岡に移転する予定だという。写真も内容もとても楽しく、あっという間の50分だった。

 ガガン氏の発表の後、もう1本聴いてからのインタビューとなった。待ち合わせの時間になかなか来ないと思ったら、有田焼の器に魅了されたらしく、窯元の方を質問攻めにしていた(笑)。次に「ガガン」に行ったら、有田焼の器が使われているかもしれない。

 そして、予約しておいたホテル内のカフェに移動してインタビュー。弾丸のように話し続けてくれた1時間の内容は今回の記事では書ききれないけれど、学会での発表とは違うガガン氏の一面で、際立って印象に残ったことをいくつかご紹介したい。

交流パーティで「五島軒本店」の特製カレーを箸で食べるガガン氏に、「インド人が日本のカレーを食べているところを撮らせて」とお願いした。「で、どうして箸なの?」と訪ねると、「スプーンで食べるなんて、日本人が欧米化しちゃってるんだよ(笑)」と。

 バンコクへはたまたま旅行しただけで、特にリサーチを重ねて計画したわけではなかったという。インドで人生に絶望したガガン氏は、家族もお金もすべて捨てて身体ひとつでバンコクを再訪することに決めた。お金もなく友達もいない環境で懸命に働いて、開店資金を提供してくれるパートナーと出会った。「人生の辛いことは全て経験してしまったから、今は楽しいことしか考えない」と言い切る。底抜けの明るさは、そんなバックグラウンドからだった。

 最終的には、カウンター10席だけの小さなレストランを持ちたいという。「料理はどんどんシンプルになると思う。週に3日だけオープンして、あとの4日は人生を楽しむ。ウエイティングリストは2年分。そんなレストランにしたい」。それが福岡になるのか、次の土地になるのかはまだ分からないという。世界で一番予約困難なレストランになるかも知れない。

 最後にガガン氏に確認した。学会発表の際に、受賞歴やランキングは紹介しないでほしいという要望があったと聞いたからだ。記事執筆時も同様か確認すると、「今日の聴き手はシェフたちだから。僕は全てのシェフを尊敬しているから、彼らの前では賞もランキングも関係ないんだ」と。

 バンコクで料理に魅了され、今回はガガン氏の人間性にますます魅了された。これは、もう1回バンコクに行かなくては!(笑)

【取材協力】
世界料理学会 in HAKODATE 実行委員会

http://www.ryori-hakodate.net/

たかせ藍沙 (たかせ あいしゃ)
トラベル&スパジャーナリスト。渡航140回超・60カ国超、海外スパ取材230軒超、ダイビング歴800本超。日々楽しい旅の提案を発信中。著書は『美食と雑貨と美肌の王国 魅惑のモロッコ』(ダイヤモンド社)、薔薇でキレイになるためのMOOK『LOVE! ROSE』(宝島社)など。楽園写真家・三好和義氏と共著の『死ぬまでに絶対行きたい世界の楽園リゾート』(PHP研究所)が4刷、台湾版も好評につき、中国版出版! 第2弾『地球の奇跡、大自然の宝石に逢いに… 青の楽園へ』好評につき、こちらも中国版出版制作中! 『ファーストクラスで世界一周 95.5万円~(仮題)』2017年春刊行決定!
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2016.09.27(火)
文・撮影=たかせ藍沙