ゴツゴツとした素朴な越前の土が好き

ようやく自分のイメージ通りの作品が完成しました。

 さてそこで取り組んでいる作品作りですが、実は2016年5月までは結構絶望的な気持ちでした……。

 2015年の12月から2016年の3月まではアトリエをクローズ。でもその間に「作りたいもの」のイメージは頭の中で大きく膨らませていました。

 しかし、なかなかイメージするものが出来上がらなくて「もう、無理だあ!」って投げ出したくなっていました。

 陶器の作品を作るためにはたくさんの工程が必要です。粘土(越前の土)で形を作り、乾燥→素焼き→陶器用の絵の具で彩色→釉薬をかけ再度焼きます。

 季節や気温によって粘土が乾くまでの時間は変わってくるし、急激に乾燥したせいでひび割れてしまうこともあります。

 窯の中でも、位置によっては温度が上がりすぎて、破裂してしまうことも。ワクワクしながら窯を開けたのに粉々になった破片が散っている時にはがっくりきます。

 でも、それよりも大変だったのが、素焼きした作品の上にかける釉薬でした。

 メーカーによっていろいろな釉薬が販売されています。その中でよさそうだなあと思うモノをいくつか取り寄せて試したのですが、色が浮いてしまったり剥げたり、発色が悪かったり。

粘土を練ったり、型どったり、スタッフも大忙しです。

 スタッフが業者さんに相談したところ、釉薬には土との相性がいいものと悪いものがあるそうです。特に越前の土は扱いにくいとか。

 茶色の土は色が出にくので白い土を勧められました。たしかに、私も信楽の白い土なら、かないきれいに仕上げられます。

 でも、私はゴツゴツとした素朴な越前の土が好きなので、どうしてもこの土で作品を作りたいのです。

 陶芸家は自分だけの釉薬を調合して作る方が多いそうです。「珪酸塩、長石、酸化亜鉛、カオリン……なにをどのぐらいの%で混ぜるか」。

 だけど月に一度しか来られない状態で、知識もないのに釉薬を調合して作るのはとうてい無理。メーカーから取り寄せた釉薬をどんどん試していき、「自分が使っている窯なら、どの温度でどういう風に仕上がるか」自分なりのテストピースを作っていくしかない、ということがわかりました。

 6月にアトリエを訪れると、取り寄せたたくさんの釉薬を使ってスタッフが試行錯誤してくれた試作品が焼きあがっていました。陶器は1000℃以上の高温で焼くのですが、わずか10℃の差できれいな色が現れるのです。

 その中で「これは使えそう!」「きれいで好き」と選んだ色を使って、今度は実際の作品に釉薬をかけて焼き上げてもらいました。その完成品を見たのが、7月。つい先日のことです。

 私が目指していたポップでプリミティブな作品が出来上がっていました。かわいくて何時間でも見ていたいぐらい。この作品たちは7月中には、「千年陶画販売サイト」に載せる予定です。お楽しみに。

 福井での制作の日々はfacebookで見てくださいね。

気持ちに余裕ができたので、はじめて越前海岸で海水浴! 気持ちいい。

千年陶画販売サイト
URL http://www.1000toga.jp/

千年陶画facebookページ
URL https://www.facebook.com/1000toga/

松尾たいこ(まつお・たいこ)
アーティスト/イラストレーター。広島県呉市生まれ。1995年、11年間勤めた地元の自動車会社を辞め32歳で上京。セツ・モードセミナーに入学、1998年からイラストレーターに転身。これまで300冊近い本の表紙イラストを担当。著作に、江國香織との共著『ふりむく』、角田光代との共著『Presents』『なくしたものたちの国』など。2013年には初エッセイ『東京おとな日和』を出し、ファッションやインテリア、そのライフスタイル全般にファンが広がる。2014年からは福井にて「千年陶画」プロジェクトスタート。現在、東京・軽井沢・福井の三拠点生活中。夫はジャーナリストの佐々木俊尚。公式サイト http://taikomatsuo.jimdo.com/

 

Column

松尾たいこの三拠点ミニマルライフ

一カ月に三都市を移動、旅するように暮らすイラストレーターの松尾たいこさんがマルチハビテーション(多拠点生活)の楽しみをつづります。

2016.07.30(土)
文・撮影=松尾たいこ