印象的だった東京メトロのCMソング

伊藤 高橋優っていうと東京メトロのCMで「きっとこの世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う」って歌っていたのが印象的。あれって彼がまだデビュー前で、「誰このメガネの人?」ってみんな思っていたと思う(笑)。だけど、「世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔」ってキャッチコピー、なんかやられた~って感じがあった。

山口 それをメッセージとして、NYタイムズに意見広告を出したんでしたよね? 日本人でもオノ・ヨーコ以来だったとか。話題作りとしても上手だったと思います。

伊藤 本当にそうです。なんでそんなことができたのか? 考えてみましょう。デビュー前の高橋優が、しかも決して派手な見た目じゃない、いやむしろ地味なメガネの人がどうしてCMタイアップに楽曲起用、そしてシンデレラボーイ的にNYタイムズの意見広告?

山口 やはりクリエイティブディレクターの箭内道彦の存在が大きかった気がしますね。

伊藤 そうなんです。彼はCMプランナーでコピーライター、音楽好きでも有名な箭内道彦に見出されたんですね。東京メトロのCMはもちろん、いつも高橋優の陰に箭内道彦あり。レコード会社主導でなく、というよりもレコード会社をすっ飛ばし、広告業界とアーティストがガッツリとコラボしているという、新しい形のプロモーションだったんです。

山口 音楽自体はオーソドックスだし、キャラクターも奇をてらっていないので、広告クリエイティブの匂いが感じられなかったのがよかったですね。

伊藤 その原因は箭内道彦という人間にあったと思います。箭内道彦といえばタワレコの「NO MUSIC, NO LIFE」のコピーで有名だけど、多くのロックミュージシャンとの交流もあって、しまいには自分でロックバンド作って紅白まで出ちゃうって。彼が博報堂を辞めて作った会社の名前が“風とロック”だから。ロックが好きなのはもちろん、尖ったことが大好きでアイデアマンで。そんな人に見出されたんだから、高橋優ってシンガーソングライターもまた面白い人なんだろうって、言い方悪いけど、説得できたんだと思う。

山口 風とロックは、フリーマガジンを発行し、ラジオ番組があって、フェスティバルまでやっていますから、メディアとしての発信力を持っていますね。

伊藤 印象としては、あれだけの内容にしてフリーマガジンって、かなり赤字営業しているはず。実際にタワレコのブランディングありきで、数字的な採算は取れていないと思います。それでも続けられるところが凄いんですけどね。

2016.02.28(日)
文=山口哲一、伊藤涼