マイケル・ジャクソン、ワム!をはじめとして、ポップミュージックの素晴らしさを布教する伝道師としても活躍するミュージシャンの西寺郷太さんが、新刊『プリンス論』を上梓しました。これを機に、80年代のシーンを席巻し、その後の音楽界に大きな影響を与えた5人のアーティストの魅力と功績を、プリンスとの関係性を軸に語ってもらいました。

vol.5 マドンナ (1958~)

米国音楽界のスーパースターたちが集った「ウィ・アー・ザ・ワールド」の録音になぜマドンナが参加しなかったか、西寺さんは近著『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』(NHK出版)において推理を試みている。

男選びで決して地雷を踏まない強気な女!

 マドンナもショーン・ペンと1989年に離婚して以降、パートナーをとっかえひっかえしていますが、本人が強気だからそれほど失敗した印象はありません。そう思うと彼女はジャネットやホイットニーのような地雷を踏んでないんです。

 彼女の『ライク・ア・プレイヤー』というアルバムにはプリンスも参加していますが、ふたりは80年代半ばに一時期付き合っていたんです。またか、と思うかもしれませんが、こういう『ビバリーヒルズ青春白書』みたいな有名人同士の恋愛関係っておもしろいですね。

 ただ、プリンスはもともと小食で、一緒にレストランに行っても食べ物にいっさい口を付けなかったそうなんですね。それで「シュリンプ(エビ)も食べない男は嫌。ダイエットするのは女だけでいいでしょ?」ってケンカ別れしたそうです。

 それはさておき、80年代後半、女性の立場向上におけるひとつの大きな流れを作ったのは、やはりマドンナです。彼女の楽曲はタイトルからして明確な意思が表示されています。

 「オープン・ユア・ハート」=あなたのハートをオープンにしなさい。

 「エクスプレス・ユアセルフ」=あなた自身を表現しなさい。

 「ジャスティファイ・マイ・ラヴ」=私の愛を正当化する──これはゲイやレズであっても、という意味も含めてですね。

 最も象徴的だったのは「ライク・ア・ヴァージン」のマリリン・モンロー的なセックスシンボルから「トゥルー・ブルー」でバサッと髪を切り、「パパ・ドント・プリーチ」では妊娠しちゃう女の子の歌で“パパ、お説教しないで”と歌うことをポップスとして成り立たせたことでしょう。

2016.01.06(水)
文=秦野邦彦
撮影=榎本麻美