字意識過剰

渋谷直角

漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカヴァーを歌う女の一生』のヒットで話題になったライター/漫画家の渋谷直角さん。CREA本誌でも好評連載中のイラストコラム「字意識過剰」のWEB出張版がスタート。毎回様々な「ことば」についての誇大妄想が爆発します。頭を空っぽにしてお楽しみください!(不定期連載)

※ 連載中は最新の3話を公開しています。

 唐突だが、「モグラ、おもしろいな」と、最近思っている。

 動物の「モグラ」だ。きっかけは、「マンガやイラストでよく見る感じのモグラ」だった。

 まあ、大体こんなのだ。みなさんが抱くモグラのイメージも似たような感じだろう。トンネルを掘るので、ヘルメットをかぶり、スコップかツルハシを持っている。視力がほとんどないため、サングラス(太陽の光に弱い、というのはウソらしい)。モグラの生態に合わせた、わかりやすいデフォルメ、キャラクター化である。

 ……なんだか、わかりやすすぎないか? モグラだけ、と思ったのだ。

 たとえばペリカンは、だいたい郵便屋さんのイメージだ。

 だが、ペリカンは別に手紙を運ぶわけではない。あのノド袋は魚と一緒に水をすくって、水を吐き出しながら魚のみを食べる。「郵便」とは意味が違う。つまり、デフォルメに、少しヒネリが入っているのだ。

 

 フクロウは学者ふうで、メガネかけたり学生帽かぶったりしているイメージが強いが、哲学のシンボルとされているためで、特にフクロウ自体が何か哲学的な行動を取ったりするわけでもない。

 タヌキのお酒。ゴリラのオーバーオール。クマのパイプ。どれも直接は生態に関係ないデフォルメ、キャラ付けだ。なのに、モグラだけは生態そのまま。ビーバーなんかは、川で家を一生懸命作るので、建築家、もしくは大工の棟梁的なキャラ付けをしてもよさそうなのに、あまりそんなイメージはない(なんとなく、ヘルメットかぶってるヤツがいたな……、くらい)。やはりモグラだけだ。モグラだけが、実際の行動や生態をもとにキャラ化されている。

 そう思うと、「これは、モグラにとって良いことなのか?」と考えてしまう。

 やっぱりモグラも、「そういう一面だけで、わたしのことを決めつけないでほしい」と思っているんじゃないか。

「スコップとツルハシって……」と、安易なカテゴライズに悩んでいるのではないか。「もっと、いろんなわたしを知ってほしい」「素顔のままで」とか。広瀬香美だって「冬の歌ばっかり歌っている」というイメージに困っていただろうし、TUBEも思うところが少なからずあっただろう。日本エレキテル連合だって、これからそういう戦いが待っているのだと思う。しかし、ミュージシャンやタレントさんとは違って、モグラは突然ものすごい暗いアルバムを出したり、「新境地!」などと大胆ヌードを『FLASH』に載せられるわけではない(見たいが)。

 つらい。そんなイメージに苦しむモグラを応援したい。「よし、僕も、モグラのいろんな一面を知ってみよう!」と思って、調べはじめた。すると、意外な事実。

「モグラのことは、まだよくわかっていない」らしいのだ。

 特に、「モグラの恋愛」。どうやって出会い、交尾し、繁殖しているのかわかっていない。モグラの研究者が飼育していても、繁殖を成功させた例が一度もないのだという。たとえばオスのモグラの巣穴に、メスのモグラを入れても、出会い頭にお互い威嚇し、殺してしまうほど殴り合いになるらしい。

 日本のほとんどに生息し、東京でも皇居や代々木公園にいる。しかし、北海道には生息しておらず、なんで北海道にだけいないのかもわかっていない。かなり身近な動物のハズなのに、土の中にいるため、ほとんど姿を見ることはないというミステリアスな魅力。こんなにミステリアスなのは、出始めのころの真木よう子以来である(絶対他にもある)。

 もちろん、わかっていることもあって、それがいちいちカッコイイ。

 まず、あの大きな手。親指側に鎌のような骨がついていて、これによって土を掘りやすくなっているという。手に鎌を内蔵。さらに、唾液に麻酔の成分が入っていて、食べ物(ミミズなど)を噛んで眠らせて、フレッシュなまま貯蓄しておくことができるのだとか。ツバで眠らせるなんて、すごいイカした武器である。鎌と麻酔を持つモグラ。カッコよすぎる。これでは、「ヘルメットにツルハシ」じゃあモグラが不満なのもわかる。

 そして、体毛がものすごく柔らかくてふわっふわ。ベルベットのような触り心地で、すごい気持ち良いらしい。しかも潔癖で、土の中にいてもカラダに土やホコリがつくとちゃんとはらうほど身ぎれいにしているという。なのに、ネコやイヌが食えないぐらい体臭がキツイとか。なんだかもう「どうしたいんだ!?」と言いたくなる。

 ちなみに、「モグラ」という名前の由来は「(土の中に)もぐる」から来た名前ではないらしい。むしろ、「モグラ」から、「もぐる」という言葉が生まれたという説もあるようだ。津田大介氏から「tsudaる」というネットスラングが生まれたのと完全に同じ構造ではないか。元々モグラは昔、「うごろもち」「むぐろもち」などと呼ばれていて、「むぐろ」=「むぐら」=「もぐら」となっていったそうだ。

 ともあれ、そんなモグラだ。ミステリアスで、武器もカッコイイ。「もぐるは俺から」という自負もある。やはり、ヘルメットやサングラスではちょっと違う。モグラも「本当の俺はそんなレベルじゃない」「ナメやがって」というプライドがあるのも当然だ。

 なので、そういった部分を踏まえて、僕もモグラをキャラ化してみた。

 

 

 

 

 

 こ、こえええええ~~っ!!!! モグラくん……、きみ、モグラくん、だよね!?

 これではなかなか愛せない。モグラよ、やっぱ最初のイメージを大事にしてはいかがだろうか…!?

※余談だが、『モグラサミット』というのもあるらしい。モグラ好きや研究者が全国から集まって講演会をやるのだそうだ。1回めは1997年、2回めは2009年に行なわれた。行ってみたい……!

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渋谷直角 近況

「こフイナム」という読み物サイト(外部サイト)も期間限定でやってますので、是非読みにきてほしいです。

既刊本

プロフィール

ライター/漫画家。著書『直角主義』(新書館)、『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカヴァーを歌う女の一生』(扶桑社)、『RELAX BOY』(小学館)が発売中。

ホームページhttp://www.shibuyachokkaku.com/

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