字意識過剰

渋谷直角

漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカヴァーを歌う女の一生』のヒットで話題になったライター/漫画家の渋谷直角さん。CREA本誌でも好評連載中のイラストコラム「字意識過剰」のWEB出張版がスタート。毎回様々な「ことば」についての誇大妄想が爆発します。頭を空っぽにしてお楽しみください!(不定期連載)

※ 連載中は最新の3話を公開しています。

「ベニジュケイ」というトリがいる。

 

 こんなの。

 ボディが赤みがかったオレンジで、白のドットのような模様が細かくあって、美しい。一方、顔は濃いブルー。自然界の不思議ともいえる配色の動物である。このベニジュケイ、繁殖期になると、

 

 

 

 こんな感じになるそうだ。

 アゴから「肉垂れ」(にくだれ)が、エプロンのようにビロビロビロ~と出てきて、おまけに頭もツノみたいにピーンと突起する。その姿でベニジュケイのオスは、メスにアピールするのである(外部サイト)。

「肉垂れ」というと、一般的にはニワトリのアゴのビロ~としたやつ、トサカと同じ赤い色のアレをイメージしてしまう。でも、ベニジュケイの肉垂れはぜんぜん違う。中東で作られた絨毯のような、きれいな柄の肉垂れ。普段はアゴの下に隠していて、なかなか見れないレアなもの。こんなものを見せられてアピールされれば、そりゃメスも、フラフラとついてってしまうだろう。

 なかなか見れないものを見ることができると、人は興奮する。「ありがたいものだ」などと思う。

※少しズレるが、渡辺直美がキャットウーマンの格好でダンスしている競艇のCM。渡辺直美と一緒に、仮面をつけた女性たちが激しく踊っていて、彼女たちをすごい「これは誰なんだァー!?」的に煽るのだが、CMの最後でその女性たちが「実は、私でした~!」感全開で仮面を外しても、「……えっ、誰だ?」と思うばかり。知らないこっちが、なんだか申し訳ない気持ちになる……。ゴメン……。しかし、アレほど「ありがたみ」感のない仮面の外しっぷりもない。

 それにしても、だ。

「肉垂れ」!

 なんというリアルな響きだろう。首の下の、肉がビローンと伸びた部分を、ここまでモロな言葉で表現するとは。何より、「だれ」がもう、すごい生々しくてイヤだ。「だれてんのかあ~」とグッタリして、テンションが下がる。やはり響きが、「耳垂れ」的な、ちょっとアレなバイアスがかかってしまうというか、「うっとうしいなあ、もう!」という不快さがあるのだ。

「よだれ」

 でも、「よだれ」は、同じ「だれ」でも印象は様々だろう。「よだれ」を可愛らしいもの、チャーミングなものとして表現する場合も多い。美味しそうなものを見て思わずよだれが……とか。実際、そんなマンガみたいなことをする人がいるのかわからないが、そういうのは、あまり不快には感じない気がする。

「石原さとみのよだれ」

 むしろ「ありがたいもの」感すら出てくる。カネ払っても、という人もいるだろう。「よだれ」の「よ」の語源は、「ゆるみ」とか「弱い」といった、「流れ出る箇所」のことを示す説と、「よよ」と泣いている時に流れるもの、という説があるらしい。石原さとみのゆるんだ部分から流れるもの、などと想像すると、こう、いろいろと大変だ(何がだ)。

「石原さとみの肉だれ」

 ……うーむ。

 これは……、どうなんだろう? すごい嫌な気もするが、「逆に良い」的な価値観もありそうな気がする。「意外とイケるな」とか。いろいろとこう、「上級者向け」だ。何のだ。

「ささみと九条ネギ、肉だれで」

 何を言っているのだ。「で」じゃねえ。ちょっと高級料亭のメニュー風を醸し出して、若干「良いもんですよお?」 的な感じを気取ってくるのが、あざとい。その「だれ」のイメージ戦略。そんなムードにダマされちゃいけない!「だれ」は所詮、「だれ」だ!

「肉だらし」

 あ、あれ? ……何だ、この感じ。急に、「いや、だれてんじゃない、こっちからだらしてやっているんだ」という、積極的な響きを持ち出したぞ?「だれ」にドンヨリと蔓延する、諦めにも似た「生まれながら付いているんだ」感。玉置浩二にも似た「生きているんだ、それでいいんだ」感。それが、「だらし」に変わることで、「あえてです~」「わざとです~」みたいなハートの強さに変化! とてもポジティブな感じになっているではないか!

 これだけ堂々と「だらし」てたら!「気が晴れた!」的なすがすがしさがあれば! さわやかじゃん!

 それに、すごい隠し持っていた「秘技」のような勇ましさすら感じる! カリスマ性ある!

 

 

 

 

 

「裏」ってなんだ。唐突だが、「だらし」てる「裏」って、どうなってるんだろう? と思った。 

 

すっごい汗」とかだったらイヤだな……。

 いや、あえて「だらしてる」くらいだから、それなりに「イイモン」的なものが「裏」にはあるんじゃないのか。堂々としてる根拠、裏付けみたいなものが。

 

イクラがビッシリ……

 気持ち悪いか? なにせCREA WEBだしな……。女性読者は引くかもしれない。もっとこう、さわやかな方がいいかな。

 

桜井サンの笑顔」とか……。

 

 う~ん……。

 

 

 

やめよう! 「裏」のことは!!

 どれもなんかコワくなってしまう!

 とにかく、「だらす」ことで、それは「意志」となる。それまで「不快」でしかないと思っていたものが、意志によって「あえて泳がせてます」「むしろ個性です」という自信に変化するのだ。

 みなさんも、何かの不都合や失敗を、誰かや何かのせいにしてないだろうか? それを恨んだりしていないだろうか?

 そうではない。「失敗したのではない。失敗させたんだ」という、まるで自らそうしてる、くらいの堂々とした態度。それによって何のメリットがあるのかサッパリわからないが、とにかくすごい自信。それが「肉だらし」イズムだ。だれるな! だらせ! ビロンビロンにだらしてやれ! そのおまえの自信満々っぷりに、メスは寄ってくるんだ!

 ……どうだろう。元気が出ただろうか? なんだか、最終的にものすごいポジティブな結論になったが、正直、自分では途中から、一体何を書いているのかよくわからなくなってきている。

 いや、違います~! あえてです~!!(説得力ゼロ)

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渋谷直角 近況

2014年10月12日(日)に名古屋で能町みね子さんと雑誌についてのトークショーがあります。もう定員らしいのですが、キャンセル待ちもあるようです。(「ブックマークナゴヤ」イベント詳細)

既刊本

プロフィール

ライター/漫画家。著書『直角主義』(新書館)、『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカヴァーを歌う女の一生』(扶桑社)、『RELAX BOY』(小学館)が発売中。

ホームページhttp://www.shibuyachokkaku.com/

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