今は、アイドルがメッセージソングを歌う時代

山口 実は、資料をいただいて、カップリング曲に、もっと驚きました。作詞が鎮座DOPENESSで、作曲にはHIFANAの、KEIZOmachine! のクレジットも。実は、僕はHIFANAのファンなんですよね。アンダーグラウンドで評価されている、ニッチジャンルで活躍しているクリエイターをピックアップして一般の人との接点をつくるという、昔のSMAPのような役割を今はももクロが果たしているかも。

伊藤 いままでのニッチなコラボをみても、彼女たち、またはスタッフが極度のオタクなんでしょうね。

山口 近年は、アイドルブームじゃないですか? PerfumeとAKB48という二大巨頭があって、以前は「地下アイドル」と呼ばれていた、TVではなく、ライブハウスを活動拠点にした「ライブアイドル」が地方も含めて、活況を呈している。この曲を聴いて思うのは、今は、アイドルがメッセージソングを歌う時代なんだなと。クリエイターもファンも、アイドルという鏡を通じて、コミュニケーションをしているという、そんな今の日本の風景を感じます。

伊藤 そういえば、山口さんもアイドル企画のプロデュースしてますよね?

山口 柄ではないのですが(笑)。「RE:IDOL」という名のプロジェクト(外部サイト)で、1980年代から2000年代の名曲を、今のライブアイドルがカバーするという企画を始めました。工藤静香「嵐の素顔」、SIAM SHADE「1/3の純情な感情」、小田和正「ラブストーリーは突然に」などを、旬のライブアイドルがカバーしています。シングルリリースを続けていって、6組になったところで、コンピレーションアルバムをリリース予定なので、お見知りおきください。

伊藤 はい。

山口 最近は、カバーブームと言われていますが、こういう企画をやると、改めて、Jポップの蓄積というか、名曲の宝庫だなということを確認します。

伊藤 ですよね。

山口 そういう意味では、今回は書き下ろしですが、フォークの歌姫と呼ばれた時代から長いキャリアを持つ中島みゆき作品をももクロが歌うというのも、Jポップの蓄積を感じますね。

伊藤 ひと昔前までは、有名アーティストに楽曲提供してもらって話題をさらいたいという風潮がありましたが、いまやそれではCDは売れない。それでも、この人に書いてもらいたいと思えるアーティストがいるというのは、名前を借りたいのではなく、本当にいい曲をその蓄積から期待しての事だと思います。この「泣いてもいいんだよ」は“団塊世代”と“さとり世代”が共に共感でき、共に抱える(抱えていた)病の唄だなぁ、と感じました。それに中島みゆき世代でないと醸し出すことの出来ない世界だとも感じました。

山口 米国のHIPHOPアーティストがブラックミュージックをリスペクトしてカバーやサンプリングをするのと同じ感覚ですね。Jポップが文化的に豊穣だからできることですね。

伊藤 構成的には、ももクロの必殺技であるジェットコースターとは打って変わって、イントロのディストーションギターで奏でるテーマは、曲中で4回も繰り返され、サビの「全然泣けなくて 苦しいのは誰ですか 全然今なら 泣いてもいいんだよ」と言うフレーズは7回、「泣」という字はなんと19回も繰り返される。まるで記憶にねじ込んでくるようにグルグルと反復される歌詞とメロディーは“メリーゴーランド”、それでも決して飽きさせないところが秀逸。

山口 ももクロのファンの親世代は、中島みゆきを知っていますよね。

伊藤 もちろん。だからこそ、親世代もこの曲は無視できないですね。

山口 そうですね。

難関中学の受験に失敗した少年の蹉跌が頭に浮かぶ

山口 それで今回の妄想分析はどうでしょうか?

伊藤 少年はついさっき入試テストを終え、バス停に向かって歩いている。彼が受けたのは全国で1、2位を争う偏差値を誇る中学校、そこに入ることが少年の、そして両親の目標だった、少なくともさっきまでは。しかし、少年は算数の3問目でパニックに陥ってしまった。その問題というのは、「ある架空の世界では」という文句で始まる。「1日が65時間、(午前32時間、午後33時間)、1時間が25分、1分が25秒に区切られていて、右のような時計を用いて時間を計っています。現在の時刻は48時5分、それぞれの短針、長針、秒針は正しい時刻を示しています。この時計はこれからも正確に動くものとして、次の問いに答えなさい。」という前置きがあり、その下には(1)~(4)の問いがあった。いままで勉強してきて計算式を当てはめれば当然答えられる問題だったはずだが、問題を見た瞬間に少年の頭の回路は壊れたように止まってしまった。少年はその問題を何度も何度も読み返すうちにテスト終了のチャイムを聴いた。テスト直後の直感的自己採点では国語、理科、社会共に85点を超えていたが、算数は10点、確実に入試には受からない。少年は歩きながら、家に帰って親になんて説明しようか、と考えている。「頑張った」とも言えないし、他になんの説明の言葉も思い浮かばない。バス停に着くと、少年の前には、小さい男の子とお母さんが手を繋いで並んでいる。そして男の子は、かけっこで2番だったこと、躓かなければ1番になれたことを力説している。自分は絶対に、だれだれちゃんより早く走れたことを。そして母親は「そうだね」とひたすらに相槌をうつ。その親子の会話を虚ろに聴きながら、少年はその男の子と今の自分を頭の中で重ねてみる。すると、バシャバシャと音を立てて、少年の目から涙が溢れてきた。

山口 今回も映像的な妄想分析ですね。この「泣いてもいいんだよ」は、前回も紹介した、ネットのクチコミを指数化した新たなランキングRUSH(外部サイト)でも、人気ですね。4月25日付のRUSH総合チャートで17位。5月第2週リリース作品の中ではダントツ1位です。
 RUSHからはオリコンチャートの予測もできるのですが、この数値だと初のオリコン週間シングルチャート1位は、ほぼ確実ですね。「腐っても鯛」という表現は語弊がありますが、形骸化したとはいえ、オリコン週間チャートの1位はブランドです。ももクロがまた一つ勲章を手に入れそうですね。

伊藤 オリコン週間シングルチャート1位どころか、この曲は、本当にヒットしますよ。

山口 注目しましょう。

ももいろクローバーZ「泣いてもいいんだよ」
キング 2014年5月8日発売
通常盤1,143円(税抜・以下同)、初回限定盤1,619円
■表題曲「泣いてもいいんだよ」は北川景子主演の映画『悪夢ちゃん The 夢ovie』主題歌。鎮座DOPENESS、KEIZOmachine!らが手がけたカップリング曲『堂々平和宣言』は映画『偉大なる、しゅららぼん』主題歌。
■「泣いてもいいんだよ」作詞・作曲/中島みゆき
■オフィシャルサイトURL http://www.momoclo.net/

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2014.04.28(月)
文=山口哲一、伊藤涼

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