普段拝むことができない器官を見た時の“ドキドキ”

 とはいえ、大多数は女性を性の対象として見る男性客で、彼らのおかげでストリップ劇場は商売として成り立っている。では、男性の裸体を性的に見たがる女性はいないのだろうか。唯一私の記憶にあるのは、ビジュアル系バンドのLIVEだ。アンコールの声に応えて再登場したメンバーたちが、汗だくのゴテゴテした衣装を脱ぎ棄て、女性ファンがきゃああと絶叫する。濃いメイクを施し、長い髪をカラフルに染めた彼らは、確信犯的に乳首を晒す。思ったより黒い。生白く薄っぺらい胸と生生しい乳首のコントラストが、どこか滑稽でもある。

 見たくなかったような気もするけど、目が離せない。なんだろう、このドキドキは。普段は見せることのないものだからか。そういう関係にならないと、拝むことができない器官だからか。 

 その興奮は、好きな人のカラダ限定なのだ。自分がその男性に愛された上で、自分に対して欲情をする。キスをして、服を脱いで、私に覆いかぶさる―。一瞬でそこまで妄想を膨らませての、きゃああ、なのだ。もし女性向けに、男性ストリッパーが踊る劇場を作るなら、よほど繊細な工夫を凝らさないと、維持するのは難しいだろう。

 

男と女との決定的な違い

 かつてストリップ劇場では、お客のひとりをステージに上げて性行為をする「まな板ショー」なるものが人気を博したそうだ。私が劇場に通い始めた頃も、本番まではさすがにないが、お客におっぱいを触らせる踊り子が稀にいた。「触りたい人!」という明るい掛け声に、手を挙げる男性客たちは、そうすることが礼儀だとばかりに、堂々とはしゃぎ、仲良く順番に揉んでいった。

 同性である私は、どん引きしながらもおっぱいを両手で揉み、もしこれが私の好きなバンドマンだったら、と想像する。本番ショーがあった時代、もし観客とステージの男女が逆だったら、きっとショーにはならなかっただろう。なぜ金を払って、好きな男が他の女とセックスをするのを見せつけられなければならないのか。悪趣味極まりない。その場で流血沙汰になるか、劇場を出た瞬間、世界一幸福な女は、階段から突き落とされて終わるだろう。そこが、男と女との決定的な違いだ。

2024.04.17(水)
出典元=『週刊文春WOMAN2024春号』