この記事の連載

基本を知っていれば「ステーキ」という選択肢が生まれる

――一汁一菜のメリットは、他にどんなものがありますか。

 基本を持っていたら、あとは自分の機嫌や家族との関係性とかで、今日はこれ食べようか、って考えられるようになります。健康や栄養のことは一汁一菜に任せておいて、一汁一菜の前に肉を焼いて、ワインを飲んだっていいんです。これまでの私たちはステーキとなると付け合わせはなににしようかなって考えるでしょ。だからそこは一汁一菜に任せて、いい肉を焼くことに集中すればいい。それだけでいいって、気持ちが楽で楽しめます。料理とは本来すべて楽しいことばかりなんですよ。

――映画でもその熱意が伝わってきました。

 映画では一汁一菜に終始してますね。でもその先に、楽しいことはたくさんあります。まあ、一汁一菜でみんなホッとできた、ということだと思います。子どもでも男性でも女性でも、ひとり暮らしのおじいちゃんでもおばあちゃんでも、一人暮らしでも、料理することで、安心で、生きているという実感が持てるのです。

――一汁一菜があれば、ごはんを楽しむ余裕ができそうです。

 そうそう。楽しみは自分で見つけるものです。一汁一菜をすることでで、精神に核を持つことができる。それは暮らしの基本ですが、そこに生まれる変化に気づくということが大事です。精神に核を作れれば、変化に対して好奇心を持てるでしょう。核を持たないと、精神に広がりが生まれません。精神は好奇心によって無限に広がり、他と結ぶのです。依存する受け身体質は、心の壁になって広がらないんですよ。【後篇へつづく】

土井善晴(どい・よしはる)

1957年生まれ、大阪出身。大学卒業後、スイスとフランスで料理を学び、大阪で日本料理を修業。92年に「おいしいもの研究所」を設立。NHK「きょうの料理」やテレビ朝日「おかずのクッキング」などの講師を務める。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮社)、『くらしのための料理学』(NHK出版)など。

TBSドキュメンタリー映画祭2024

全国6都市で3月15日(金)より順次開催(東京・大阪・京都・名古屋・福岡・札幌)

※土井善晴さん、舞台挨拶への登壇も決定!
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映画 情熱大陸 土井善晴(東京・大阪・京都限定上映)

「一汁一菜」、ご飯を中心に味噌汁と簡単なおかずで構成する和食のスタイル。土井は、日々の食事はこれで十分と提案し、料理を億劫に感じていた人の心を軽くする。味噌汁は出汁をとらなくてもいいし、具材に何を入れてもいい。作りやすいレシピの紹介で人気の“土井先生”だが、いま、レシピから離れる大切さを説く。料理する全ての人を応援したい…生き辛さを抱える時代に新たな暮らしの哲学を模索する料理研究家の情熱を見つめる。
予告編https://youtu.be/4QrONYJaB-k?si=V_igFScEFpLg--_s

出演:土井善晴
監督:沖 倫太朗
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/

次の話を読む「家庭料理の話をしないで」という高校生…土井善晴が“一汁一菜”で本当に伝えたい「自愛」のための料理

2024.03.09(土)
文=吉川愛歩
撮影=細田 忠